肉用牛の周年親子放牧を基軸とした超低コスト肥育素牛生産体系
要約
繁殖牛と子牛を冬期も含めた周年で一緒に放牧することにより、慣行的な飼養方式と比較して生産コストの4割を削減できる省力的な肥育素牛の生産技術体系である。生産性を低下させることなく肉用牛繁殖経営の労働力負担が軽減でき、耕作放棄地等の効率的な活用等に有効である。
- キーワード:肉用牛、肥育素牛、周年親子放牧、省力化、低コスト
- 担当:畜産研究部門・草地利用研究領域・草地管理ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
我が国の繁殖牛飼養農家は高齢化と減少傾向が続いており、肥育素牛の安定的な供給に向け、生産性を低下させずに省力・低コストで、かつ、新規参入者でも取り組みやすいような子牛生産技術の開発が求められている。そこで、繁殖牛と子牛を通年で放牧飼養する技術を基軸とし、省力化・低コスト化と同時に、一般的な飼養形態(舎飼)と遜色ない肥育素牛の生産を可能にする技術開発を行う。
成果の内容・特徴
- 周年親子放牧は、季節限定的な放牧や親子分離飼育等を行う等の慣行的な肉用牛飼養形態に対し、放牧期間の延長・周年化と親子同時放牧を行うことで省力化を達成する新たな放牧飼養形態である。開発した周年親子放牧による肥育素牛生産体系は、主に放牧草地・放牧施設における家畜管理技術、放牧草地管理技術及びこれらの導入効果を試算・検証する営農技術から成る(図1)。
- 子牛の生産コストは、労働費と物財費を合わせた費用合計で構成される。労働費は労働時間の短縮により低減でき、物財費は飼料費をはじめとする投入資材費用の見直しにより低減できる。
- 放牧家畜を管理する技術である「自動体重計測システム」および「発情監視システム」の導入により、作業時間を約9割削減できる。また、「飲水管理システム」により放牧管理のうち飲水管理に係る全ての作業が不要となり、放牧管理時間が最大で約65%削減される(図2)。
- 放牧草地を管理する技術である「牧草作付け計画支援システム」により地域条件や経営条件に適した放牧草作付けが可能になる。これに「自動体重計測システム」による定期的な体重測定を基にした効果的な補助飼料給与を組み合わせることにより、舎飼飼養に比べ飼料費を4割削減しつつ、舎飼育成子牛と遜色のない出荷時体重280kg(9ヶ月齢)を確保することが可能である(図3)。
- 「周年親子放牧導入支援システム」により新規就農者への周年親子放牧の導入効果を試算すると、子牛1頭あたりの物財費は統計値に比べて4割削減が可能になるとともに、「自動体重計測システム」を導入した場合は安定的な生産が可能になることで所得が増加する(表1)。
普及のための参考情報
- 普及対象:新規就農者を含む肥育素牛生産者、公共牧場、普及指導機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:関東以南の概ね1,000ha。
- その他:「周年親子放牧コンソーシアム」の成果として、マニュアルによる普及活動を行う。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「先導プロ」、28補正「AIプロ」)
- 研究期間:2016~2020年度
- 研究担当者:
中尾誠司、平野清、杉戸克裕、石崎宏、芳賀聡、下田勝久、佐々木寛幸、手島茂樹、北川美弥、遠山牧人、喜田環樹、進藤和政、井出保行、山田大吾、的場和弘、東山雅一、池田堅太郎、堤道生、渡邊也恭、吉利怜奈、中野美和、中神弘詞、山本嘉人、恒川磯雄、栂村恭子、野中和久、杉中求ら(家畜改良セ)、保倉勝己(山梨県畜酪セ)、藤田和男ら(大分県農林水産研究指導セ)、津田健一郎ら(熊本県農研セ)、宮脇豊ら(サージミヤワキ(株))
- 発表論文等:周年親子放牧コンソーシアム編(2021)「周年親子放牧導入マニュアル」(2021年3月公開)