スーダン型ソルガム2回刈り栽培の倒伏折損被害低減技術としての有効性

要約

スーダン型ソルガムの2回刈り栽培は、飼料用トウモロコシに比較し、強風雨による倒伏折損とそれによる減収の可能性が少なく、気象リスクによる被害を低減する作付体系として有効である。

  • キーワード:気象リスク、スーダン型ソルガム、「涼風」、倒伏、「峰風」
  • 担当:畜産研究部門・飼料作物研究領域・栽培技術ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、気候変動の影響等により、短時間強雨の頻度が増加するなど、農業生産における気象リスクが増大している。飼料生産においても、強風雨による飼料用トウモロコシの倒伏被害等が深刻化しており、こうした気象災害への対応が急務となっている。都府県で利用可能な長大型飼料作物としてはトウモロコシのほかソルガムがあげられるが、ソルガムは倒伏からの回復が比較的容易であることが知られている。こうしたことから、本研究では、ソルガムのうち、特に近年2回刈り栽培可能な新品種が育成されているスーダン型ソルガムに着目し、スーダン型ソルガム2回刈り栽培の気象リスクによる倒伏折損被害低減技術としての有効性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • スーダン型ソルガムは2回刈り栽培が可能であり、1番草は強風雨によって倒伏しても回復するほか、2番草(再生草)は極めて倒伏しにくい特性を有している(図1)。
  • 既往の文献やプロジェクト研究の試験結果より、倒伏折損被害に関する事例としてスーダン型ソルガム2事例を含むソルガム6事例およびトウモロコシ18事例の合計24事例のデータを抽出し、倒伏折損が発生した事例の最大1時間降水量と最大風速の下限値を組み合わせて被害発生基準を策定すると、ソルガムでは最大1時間降水量6.5mm・最大風速4m/sが同日に発生する条件で倒伏被害が発生し始めると推定される。トウモロコシでは最大1時間降水量10.5mm・最大風速6m/sが同日に発生する条件で倒伏被害が発生し始めると推定される。また、トウモロコシについては、倒伏状況に応じて3種の被害発生基準を策定する(表1)。
  • 既往の文献および試験結果より、ソルガム2回刈り栽培では1番草の栄養生長期の倒伏はその後の回復が可能であり、また、2番草の耐倒伏性が極めて高いことから、ソルガム2回刈り栽培について倒伏折損の被害を考慮すべき期間は、1番草の出穂始め期から収穫期(出穂期)までの10日間前後と考えられる。一方、トウモロコシでも栄養生長期の倒伏は、その後の回復が可能なものの、出穂期前後以降の倒伏は回復が困難であることが示されているため、倒伏折損の被害を考慮すべき期間は出穂前10日前後より収穫期(黄熟期)までと考えられる。スーダン型ソルガム「涼風」とトウモロコシ「タカネスター」の育成地である長野県において、一般的な栽培スケジュールで両品種を栽培した場合の倒伏折損被害を考慮すべき期間を図2に示す(図2)。
  • 図2のような栽培を行った場合の「涼風」および「タカネスター」について、長野県諏訪のアメダスデータ(2011年~2019年)を用いて倒伏折損の被害発生確率、並びに減収見込みを算出すると、「涼風」の被害発生確率の積算値は80.9%であり、1番草の倒伏による減収率を10%と仮定し、長野県畜産試験場の乾物収量の事例(1番草879kg/10a、2番草694kg/10a)に当てはめると、倒伏折損による年間合計乾物収量の減少は4.5%(1,573kg/10a→1,502kg/10a)と試算される(表2)。同様に、「タカネスター」では、倒伏折損により乾物収量は13.3%(1,776kg/10a→1,539kg/10a)減収すると試算される(表2)。
  • 以上より、スーダン型ソルガム「涼風」2回刈り栽培は、倒伏等による減収の見込みが少なく、トウモロコシ「タカネスター」に比較して気象リスクによる被害を低減可能な作付体系である。

成果の活用面・留意点

  • スーダン型ソルガム2回刈り栽培は、寒冷地南部~温暖地の気象リスクによる被害を低減する作付体系として活用可能である。
  • 倒伏折損の被害発生基準は今後の被害データの蓄積等に基づき見直しを行う必要がある。

具体的データ

図1  スーダン型ソルガム「涼風」1番草の強風雨による倒伏(左上)と倒伏からの回復(右上)、および強風でも倒伏しない「峰風」(左下)・「涼風」(右下)の2番草,表1 トウモロコシおよびソルガムの倒伏折損被害の発生基準,図2 スーダン型ソルガム「涼風」(2回刈り栽培)とトウモロコシ「タカネスター」を育成地である長野県で一般的な栽培スケジュールで栽培した場合の播種期、収穫期および倒伏折損被害を考慮すべき期間,表2  スーダン型ソルガム「涼風」(2回刈り栽培)およびトウモロコシ「タカネスター」を長野県において図2のスケジュールで栽培を行った場合の倒伏折損による被害発生確率積算値および減収見込み

その他

  • 予算区分:その他外部資金(29補正「経営体プロ」(気象リスク飼料))
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:
    菅野勉、赤松佑紀、須永義人、佐々木寛幸、佐々木梢、清沢敦志(長野県畜試)、小柳渉(新潟県農総研畜研セ)、高野浩(静岡県畜技研)、折原健太郎(神奈川県畜技セ)、野中太輔(千葉県安房農業事務所)、後藤衛(千葉県安房農業事務所)、時田瞳(千葉県畜総研セ)
  • 発表論文等:菅野ら(2021)日草誌、66:218-228