我が国肥育豚の栄養素排せつ量原単位の改定および養豚用飼料中CP含量の推移
要約
我が国肥育豚の窒素・リン・カリウム排せつ量原単位を最新のデータに基づき推定したところ、従来の値と比較して窒素およびリンは高く、カリウムは低い。飼料成分の年次推移から、飼料中の粗蛋白質(CP)含量は徐々に低下し、逆に結晶アミノ酸含量は一貫して増加している。
- キーワード:豚、排せつ量原単位、窒素排せつ量、アミノ酸バランス改善
- 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・大気環境ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
家畜ふん尿に含まれる窒素、リン、カリウムは、作物にとって必須の栄養素であり肥料として有用である一方、特に過剰にある場合には、環境負荷源にもなり得る。1頭の家畜が栄養素を1日あたりどれだけ排せつするかを表す排せつ量原単位は、地域における栄養素の需給バランスの評価に利用されている他、有機質肥料利用や排せつ物処理の指標として利用されている。また、特に窒素排せつ量原単位は、家畜排せつ物処理から発生する強力な温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)や臭気物質であるアンモニアの排出量の算出にも使用されている重要な値である。しかし、従来の原単位が提案されてから窒素・リンは23年、カリウムは18年が経過しており、育種改良の進展や飼養管理の改善により実態との乖離が大きくなってきている。そこで、最新のデータを用いて、改めて肥育豚排せつ量原単位の推定を行う。
成果の内容・特徴
- 下記の飼料中栄養素含量と、日本養豚協会調査による出荷日齢、出荷体重、飼料要求率等の生産性に関わるパラメ-タから摂取飼料および生産物(豚体)に含まれる栄養素を求め、その差を肥育豚排せつ量原単位として推定している。
- 飼料中の粗蛋白質 (CP)含量は、統計データ(流通価格等実態調査および飼料月報)による配合飼料原料使用量および日本標準飼料成分表の飼料成分値から推定している。飼料中のリンおよびカリウム含量は飼料サンプルの分析により求めている(表1)。
- 配合飼料原料使用量および飼料成分値より豚用配合飼料中のCP含量および結晶アミノ酸含量を算出し、その年次推移を調べたところ、CP含量は徐々に低下しており、逆に結晶アミノ酸含量は一貫して増加していたことから、飼料中のアミノ酸バランスは徐々に改善されている(図1)。
- 推定された排せつ量原単位は、窒素およびリンは従来値と比較してそれぞれ15%および11%大きく、一方カリウムは従来の値より18%小さい(表2)。この理由として、従来値の推定において想定された肥育豚用飼料中CP含量は13.8%、リン含量は0.55%と今回得られた値よりかなり小さく、逆にカリウム含量は0.74%と大きかったことが考えられる。CP含量は実際には上記のとおり経年的に低下していることから、窒素利用効率は改善されていると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 今回改定された窒素排せつ量原単位は、2021年度版の「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」に採用される予定である。
- 今回改定された栄養素排せつ量原単位は、堆肥等家畜ふん尿由来肥料の施肥量の適正化に寄与するとともに、地域における栄養素の需給バランスや国内窒素フローの適正な評価にも貢献する。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2014~2019年度
- 研究担当者:荻野暁史、大森英之、井上寛暁、山下恭広、長田隆
- 発表論文等:荻野ら(2020)日畜会報、91:281-288