活性汚泥モデルによる養豚廃水からの窒素除去の推定

要約

流入水のBOD/t-N比が2~4の養豚廃水の活性汚泥処理において、低溶存酸素濃度の連続曝気、および間欠曝気の両者で窒素除去を生起させることができるが、流入水のBOD/t-N比が2になると、いずれの手段でも十分な窒素除去を行うのは難しい。

  • キーワード:養豚廃水、活性汚泥処理、溶存酸素濃度、活性汚泥モデル、窒素除去
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・水環境ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

養豚廃水には高濃度の窒素が含まれており、水質汚濁防止法への対応の観点から、簡易な窒素除去技術の開発が急務となっている。養豚廃水の多くは活性汚泥処理により処理されているが、窒素除去に配慮した運転管理がされていない場合が多い。そのため、効果的な窒素除去を行うための浄化槽管理手法の情報が求められているが、流入水のBOD/t-N比(BOD:生物化学的酸素要求量、t-N:全窒素、これらの比率が十分な窒素除去の可否に影響する)や曝気条件等が多様であるために、廃水処理の理論に基づく提言が困難であった。
そこで、活性汚泥モデルを用いた解析を行うことにより、流入水のBOD/t-N比が異なる条件での、連続曝気式活性汚泥処理および、間欠曝気式活性汚泥処理における、窒素除去の可能性について検討する。

成果の内容・特徴

  • 活性汚泥モデル(Activated Sludge Model 2 を改変、亜硝酸を硝化・脱窒の中間体として使用、遊離亜硝酸と遊離アンモニアの硝化反応への阻害効果を考慮している)を用いてフルスケール(60m3)、連続流入、流入水中BOD濃度3000 mg/L(BOD5に相当)、全窒素濃度 1500、1000、750 mg/L(それぞれBOD/t-N比2、3、4)20°C、BOD容積負荷0.5kg/m3/day、曝気槽中浮遊物質濃度 5000 mg/L、連続曝気および間欠曝気の条件についてシミュレーションを行う(図1)。用いたBOD容積負荷および浮遊物質濃度は畜産現場では一般的な値である。
  • 連続曝気の場合、流入水のBOD/t-N比が2、3、4、それぞれに対して、曝気槽中溶存酸素濃度が0.04-0.05、0.04-0.08、0.04-0.1 mg/Lといった低溶存酸素濃度の場合、91-96 %の窒素除去が起こり、処理水中の窒素濃度が100 mg/L以下になる(図2、表1)。また、BODはいずれの条件でも除去率98%である。
  • 間欠曝気の場合、流入水のBOD/t-N比が2、3、4、それぞれに対して、曝気終了時の曝気槽中溶存酸素濃度が0.19、0.69-1.2、1.7-5.8 mg/Lの場合、93-95 %の窒素除去が起こり、処理水中の窒素濃度が100 mg/L以下になる(図3、表1)。また、BODはいずれの条件でも除去率98%である。
  • 流入水のBOD/t-N比2、3、4に対して、連続曝気で曝気槽中溶存酸素濃度がそれぞれ0.03-0.07、0.03-0.07、0.04-0.1 mg/L、間欠曝気の曝気終了時の曝気槽中溶存酸素濃度がそれぞれ、0.16-0.19、0.69、1.7 mg/Lの場合、硝酸を経由しない、亜硝酸経由の硝化・脱窒反応により窒素除去が行われる。
  • 処理水中の窒素濃度が100 mg/L以下になる場合の曝気に必要な消費電力量は、流入水のBOD/t-N比2、3の時は、連続曝気と間欠曝気で同等である(表1)。流入水のBOD/t-N比4の時は、間欠曝気で過剰曝気により消費電力量が高くなる場合がある。
  • 流入水のBOD/t-N比が2、3、4、いずれの条件でも、処理水中の窒素濃度を100 mg/L 以下にすることができるが、BOD/t-N比が2の場合は、BOD/t-N比が3,4の場合に比べて、溶存酸素濃度の条件が非常に狭いことから、活性汚泥処理のみで窒素除去を行うのではなく、有機物や硫黄等電子供与態の添加による脱窒やアナモックス処理等の高度処理を付加するのが現実的であると言える。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は既設の連続曝気および間欠曝気の活性汚泥処理施設にて、活性汚泥処理単独で窒素除去を行うか、高度処理の付加が必要かの判断基準に活用できる。
  • 実際の施設での窒素除去が起こる溶存酸素濃度については、実試験により確認する必要がある。
  • 低溶存酸素濃度におけるBODおよび窒素除去の現象は、活性汚泥が存在する条件で曝気をしていても低い溶存酸素濃度になっている場合のことであり、活性汚泥が存在しないもしくは、曝気をせずに溶存酸素濃度が下がっている状況を示すものではない。

具体的データ

図1 活性汚泥モデル(Activated Sludge Model 2 を改変)を用いたシミュレーション条件,図2 活性汚泥モデルを用いたシミュレーションによる、連続曝気の曝気槽溶存酸素条件での処理水中全窒素濃度,図3 活性汚泥モデルを用いたシミュレーションによる、間欠曝気の曝気終了時の異なる曝気槽溶存酸素条件での処理水中全窒素濃度,表1 活性汚泥モデルを用いたシミュレーションによる、異なる曝気槽溶存酸素条件での処理性能および曝気エネルギー消費量

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:和木美代子、安田知子、福本泰之、Fabrice Beline (INRAE)、Albert Magri (LEQUIA)
  • 発表論文等:Waki et al. (2020) Bioresource Technology Reports 11(2020) 100492