乳製品の特性を改変する乳酸菌補助スターター

要約

GABA(γ-アミノ酪酸)生産乳酸菌Lactococcus lactis 01-7株は、発酵乳の血圧降下作用を示すペプチドを増加するとともに、「濃厚な」食感を高める。

  • キーワード:発酵乳、機能性、官能評価
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・乳製品開発ユニット、食肉品質ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

発酵乳やチーズ等の発酵乳製品の製造には、乳酸菌が必要不可欠である。多くの地域乳業メーカーは、海外から乳製品製造用の「たね菌」(スターター)を購入しており、風味や品質、機能性に独自性を出しにくく、製品としての差別化が難しい。このため、公的研究機関による独自のスターターや乳製品の開発と成果移転が求められている。
当ユニットで分離されたGABA(γ-アミノ酪酸)生産乳酸菌Lactococcus lactis 01-7株(以下、01-7株)は、発酵乳およびチーズ中のGABA含量を増加させ、差別化スターターとして有望である。本研究では、さらに付加価値を高めるために、メタボローム解析により探索した発酵乳中に含まれる機能性成分候補および、分析型官能評価により解析した発酵乳の特性を示す。

成果の内容・特徴

  • 01-7株添加により発酵乳に生成する機能性成分の探索は、GABAを生成しないLactococcus lactis 01-1株(以下、01-1株)のみをコントロール区とし、01-1株+01-7株を試験区として行っている。
  • 01-7株を添加して培養したGABA含有発酵乳は、01-7株を添加しないコントロール区より高いアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を示す(図1)。これを反映し、01-7株添加でACE阻害ペプチドであるLeu-Pro(ロイシン-プロリン)、Val-Pro(バリン-プロリン)、Ala-Pro(アラニン-プロリン)、Val-Pro-Pro(バリン-プロリン-プロリン)、Val-Leu(バリン-ロイシン)、 Pro-Pro(プロリン-プロリン)が増加する。
  • 官能特性については、01-1株あるいはLactobacillus helveticus B-1株をたね菌として、各たね菌のみで製造した発酵乳、および各たね菌に01-7株を添加して製造した発酵乳の4種について分析型パネルを用いて評価している。01-7株を添加することで「濃厚さ」に対する評価値が有意に高くなることから、たね菌の種類に関係なく、01-7株は「濃厚な」食感を高めると考えられる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 01-7株は乳の発酵能が低いため、乳発酵能の強いスターターと同時に接種する必要がある。
  • 01-7株は特許実施契約により利用可能である。
  • 発酵乳で検出された機能性ペプチドについては、ヒトにおける効果は評価していない。

具体的データ

図1 01-7株添加発酵乳のACE阻害活性,表1 01-7株の添加が発酵乳の官能特性に及ぼす影響

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:
    萩達朗、佐々木啓介、中川博之、大森英之、成田卓美、渡邊源哉、本山三知代、中島郁世、小林美穂、野村将
  • 発表論文等:
    • Hagi T. et al. (2016) J. Dairy Sci. 99(2):994-1001
    • Hagi t. et al. (2019) J. Food Biochem. 43(11):e13039
    • 萩ら、特願(2019年2月5日)