チーズ中における熟成促進乳酸菌のタンパク質分解関連遺伝子群の発現

要約

チーズの熟成期間を短縮する乳酸菌Lacticaseibacillus paracasei (Lactobacillus paracasei) EG9株は、熟成初期にタンパク質分解関連遺伝子群の発現が上昇し、チーズ中のアミノ酸増加に直接関与する。本菌のタンパク質分解機構解明は、熟成制御技術開発に有効である。

  • キーワード:チーズ、乳酸菌、熟成促進、タンパク質分解関連遺伝子群、発現解析
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・乳製品開発ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

チーズには多くの種類があり、製造工程も様々である。日本でも人気のチェダーチーズやゴーダチーズは型詰めして加塩した後、熟成を経てから喫食する。熟成工程は低温で長期間行うため、製造者にとってはコストが掛かることと在庫を抱えることが問題であり、出荷を早めるための熟成促進技術の開発が求められている。乳酸菌Lacticaseibacillus paracasei (Lactobacillus paracasei) EG9株は熟成後期のゴーダタイプチーズから分離された非スターター性乳酸菌であり、チーズ製造時に本菌を原料乳に添加すると熟成中の遊離アミノ酸生成が促進される。しかし、その作用機作は明らかになっていない。一般的に、乳業用乳酸菌による乳タンパク質分解は、細胞外における細胞壁結合型プロテイナーゼ (CEP)によるペプチドへの断片化、ペプチド輸送系による細胞内へのペプチド取り込み、そして細胞内におけるペプチダーゼによる低分子化による(図1)。
そこで、本研究ではEG9株の乳タンパク質分解に関わる遺伝子群を探索し、チーズ中における発現解析を行うことにより、乳タンパク質が分解されアミノ酸が生成する過程におけるEG9株の関与を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • EG9株ゲノムは、2.93 Mbpの染色体と3つのプラスミド(染色体外遺伝子、80 kbp、55 kbp、12 kbp)で構成される。
  • 他の乳酸菌の既知の乳タンパク質分解関連遺伝子の相同遺伝子は、EG9株染色体上にCEP遺伝子1、ペプチド輸送系遺伝子11、ペプチダーゼ遺伝子18、応答制御因子遺伝子1の計31遺伝子が存在する(表1)。これら遺伝子はEG9株特異的PCRプライマーを用いたRT-PCRによりいずれも発現が確認される。なお、プラスミド上に該当配列は存在しない。
  • 塩水浸漬後(熟成0日)のチーズでは、スキムミルク培養の定常期菌体(対照)と比較して26/31遺伝子の発現が上昇し、特にペプチダーゼ遺伝子pepO 1010とpepA 308、pepP 304は10倍以上上昇しており、EG9株は活発に活動している(表2)。一方、熟成30日には30/31遺伝子は発現減少し、特に25遺伝子の発現は有意に極低レベルであり、EG9株は休止状態である。
  • EG9株は乳タンパク質の断片化、ペプチドの細胞内取り込み、および低分子化の全段階で働き、チーズ熟成中のアミノ酸生成に直接関与する(図1)。

成果の活用面・留意点

  • EG9株の乳タンパク質分解に関わる遺伝子を明らかにすることは、熟成制御技術開発に有効である。
  • 乳中におけるEG9株の生育を促すため、試験はLactococcus lactis subsp. cremoris 712株との共培養にて実施している。発現解析にあたり、EG9株特異的PCRプライマーを用いることにより、712株の遺伝子は検出していない。

具体的データ

図1 乳酸菌によるタンパク質分解モデル,表1  EG9ゲノムにおけるタンパク質分解関連の相同遺伝子探索,表2  熟成0日と30日におけるEG9株タンパク質分解関連遺伝子の発現概要

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:野村将、朝比奈唯(筑波大院)、萩達朗、小林美穂、成田卓美、佐々木啓介、田島淳史(筑波大院)
  • 発表論文等:
    • Asahina Y. et al. (2018) Genome A. 6:e00627-18
    • Asahina Y. et al. (2020) Int. Dairy J. 110:104812