物質生産に基づいたトマトの生育予測技術
要約
トマトの施設生産において気温、日射、CO2濃度の環境情報および葉面積、果実乾物率の生体情報を用いてトマトの物質生産量や収量を推定できる。また、物質生産の推定値と実測値を比較することによって、生産性向上のための改善点や環境制御・栽培管理の判断情報を得ることができる。
- キーワード:トマト、収量予測、物質生産、受光量、光利用効率
- 担当:野菜花き研究部門・野菜生産システム研究領域・施設野菜ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-8681
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近年、センシングや制御技術および情報通信技術の発展に伴い、生産現場では施設内の気象環境のモニタリング技術が普及しており、気象条件による作物の応答に関する知見が蓄積され、環境制御による生育制御が可能になっている。また、環境情報や生体情報を分析しながら生産性向上のための管理を目指す取組みがなされつつある。しかし、施設内気象データ解析や作物の生育モデル関連研究は多いものの、実際の生産現場レベルでの活用事例はほとんどなく、葉、茎および果実の乾物生産量のような物質生産については解析手法が確立されていない状況である。そこで本研究では、気象情報および生体情報から物質生産量を推定する計算式を作成すると共に、それを基にトマト栽培に対して有効な情報提供ができるツールを開発する。
成果の内容・特徴
- 本研究で開発したトマトの乾物生産に着目した収量算出手法を図1に示す。トマト株のLAIや栽植密度、日射量および吸光係数から算出した積算受光量(MJ m-2)と光利用効率(以下LUE、gDW MJ-1)によって総乾物生産量(以下TDM、kgDW m-2)を算出する。このTDMに果実分配率(gDW gDW-1)を乗じた乾物果実重量(kgDW m-2)に、果実乾物率(gDW gFW-1)を用いて収量である果実新鮮重(kgFW m-2)に換算する。
- 作物の生体情報の収集には非破壊法を想定し、葉面積指数(m2 m-2、以下LAI)の計算に必要な平均個葉面積は、葉長と葉幅の乗じた値との回帰式に基づいて求める。また、トマトの葉数は、展葉速度(枚/株/日)と室内日平均気温(°C)との高い相関関係を利用し、日平均気温から推定する。株の受光量とTDMの関係から求めるLUEは、日中の平均CO2濃度の相関関係を用い、昼間の室内平均CO2濃度に基づいて変化させる。
- トマトの収量算出手法に基づいた一連の計算をPC上で実行できるアプリ(試作)を図2に示す。本アプリの主な機能としては、施設内環境、生育、物質生産および収量関連情報の計算・表示機能に加え、想定される環境条件による収量のシミュレーション機能を設けている。
- 本計算手法を用いてトマトの長期多段栽培および低段密植栽培に適用すると、高い精度でトマトの収量を予測することができる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本研究で作成したパラメータや決定係数は、大玉トマトを用いて養液栽培のようにストレスがかからない条件下で得られたものであり、同条件であれば、概ね共用できるが、栽培条件や品種によっては、群落構造の差による光の吸収特性やLUEが異なる場合があり、養水分管理や整枝・誘引方法などによっても各係数が変動する。そのため、品種や栽培条件によって各係数を整理する必要がある。
- 試作したアプリから提供される情報は、環境制御や栽培管理の判断情報として活用できる。現在、他作物や多くの栽培体系に対応できるように改良を行うと共に、社会実装に向けて商品化を目指す。なお、農業データ連携基盤(WAGRI)との連携も想定している。
- 本研究成果はICT技術と融合し、クラウドサービスとして実装可能であり、スマート農業の発展に貢献できるものであり、施設生産における生産性向上のためのスキーム構築に有効である。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP、28補正「経営体プロ」)
- 研究期間:2016~2018年度
- 研究担当者:安東赫、菅野圭一、村松幸成、伊藤瑞穂、小田篤、東出忠桐
- 発表論文等:
- Higashide T. and Heuvelink E. (2009) J. Amer. Soc. Hort. Sci. 134:460-465
- 東出忠桐(2018)園学研、17(2):133-146