生育・収量予測ツールによるトマト年間収量55t/10aの実現

要約

環境条件と品種特性から生育・収量を算出するツール(ソフトウェア)を用い、シミュレーションによって環境制御設定や栽培管理法を適正化することにより、糖度5°以上で、「鈴玉(りんぎょく)」では10a当たり55t、従来品種で50t以上の年間収量が得られる。

  • キーワード:収量増加、栽培管理、環境制御、生育シミュレーション
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜生産システム研究領域・施設生産ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8681
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

日本のトマトは高品質で糖度5°以上と高いが、年間収量は平均15t/10a以下と低い。オランダのトマトでは糖度は低いが、収量は約65t/10aと著しく多い。日本のトマトの収量増加には、環境制御装置の導入と利用技術向上が重要であるが、制御を要する項目は多く、外部条件や品種や生育に応じて最適値は絶えず変化するため、適正な制御は容易ではない。そこで本研究では、これを解決するため開発された環境条件と品種特性から生育・収量を算出するツール(ソフトウェア、2019年度研究成果情報31102_01_研究URL)を用いて、実際のトマト栽培で環境制御や栽培管理を改善し、糖度5°以上となる日本のトマトの年間収量の増加を図る。

成果の内容・特徴

  • 生育・収量予測ツールを用いることによって、10a当たりの年間収量は、「鈴玉(りんぎょく)」では55t、従来品種「CF桃太郎ヨーク」でも50t以上になる(図1)。このときの両品種の平均糖度は、ほぼ全期間で5°以上である。
  • 生育・収量予測ツールを用いて環境制御や栽培管理を改善するため、時季毎の日射に応じた葉面積指数(LAI)、葉数・及び果房数を調節する温度管理、1日の乾物生産を増やすためのCO2管理等をシミュレーションする。シミュレーション結果に基づいて、乾物生産がより大きくなる設定や管理法を選択することで収量増加を図る(図2)。
  • 三重県松阪市及び栃木県下野市(大規模生産法人)において同ツールを適用して栽培管理に利用したところ、10a当たり年間収量は、それぞれ、55.5t(「鈴玉」)及び50.4t(従来品種「りんか409」)となり、高い収量が得られる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 図1は農研機構つくば植物工場において2017年4月~2018年3月の344日間の試験によって得られた結果である。「鈴玉」はオランダ台木「Maxifort」に接木し、「CF桃太郎ヨーク」は自根である。生育・収量予測ツールによる試算に基づき、LAIは3.0~5.5の間で、CO2濃度は380~1000ppmの間で調節・管理した。
  • 三重県松阪市の三重県農業研究所植物工場三重拠点の結果は、「鈴玉」を国産台木「スパイク23」に接木し、2017年8月~2018年7月の353日間に得たものである。
  • 栃木県下野市の大規模生産法人(0.85ha)の結果は、2017年8月~2018年7月の338日間に得たものである。
  • 生育・収量予測ツールは、温度、光及びCO2濃度のような環境データ、LAIのような生育データから乾物生産及び収量を試算することができる。温度やCO2濃度等に対する環境反応について品種によって異なる特性を考慮してシミュレーションを行うものである。トマト長段栽培以外にも低段栽培や高糖度栽培の収量向上も同様に本ツールを適用しており、パプリカやキュウリについても本ツールによる多収化を進めている。

具体的データ

図1 生育・収量予測ツールを用いたトマト栽培における収量の推移,図2 生育・収量予測ツールを用いたトマト多収化のためのフロー,表1 三重県及び栃木県において生育・収量予測ツールを用いたときのトマト収量

その他

  • 予算区分:交付金、その他の外部資金(SIP、28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:東出忠桐、斎藤岳士、河崎靖、安東赫、小田篤、菅野圭一、村松幸成、伊藤瑞穂、今西俊介、西村浩志(三重農研)、礒崎真英(三重農研)、磯山陽介(三重農研)、陣在ゆかり(株式会社 誠和)、竹澤里実(株式会社 誠和)
  • 発表論文等:東出(2018)園学研、17(2):133-146