トマト黄化葉巻病抵抗性遺伝子Ty-2の原因遺伝子TYNBS1

要約

トマトのTYNBS1遺伝子はトマト黄化葉巻病抵抗性遺伝子Ty-2の原因遺伝子である。TYNBS1はcoiled-coil domainをN末端に有するNB-LRRタンパク質をコードする。

  • キーワード:トマト黄化葉巻病、TYLCV、Ty-2抵抗性遺伝子、ベゴモウイルス、NB-LRR遺伝子
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜育種・ゲノム研究領域・ゲノム解析ユニット
  • 代表連絡先:電話050-3533-1833
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)によるトマト黄化葉巻病は、媒介するタバココナジラミが微小で薬剤耐性が発達していることから防除は極めて困難である。国内に発生するTYLCVはイスラエル(IL)系統とマイルド(Mld)系統に大別される。本病に対していくつかの抵抗性遺伝子が知られているが、Ty-2遺伝子はトマト近縁野生種Solanum habrochaites由来の抵抗性遺伝子である。Ty-3a等、他のトマト黄化葉巻病抵抗性遺伝子ではウイルスは増殖してしまうのに対し、Ty-2遺伝子の抵抗性は極めて強度であり、TYLCVのIL系統の増殖を抑制する。Mld系統に抵抗性を示さない欠点はあるが、抵抗性遺伝子の集積による強度抵抗性品種育成を考える上でTy-2遺伝子は非常に重要である。栽培品種にも導入・利用されているが、抵抗性遺伝子の実体は明らかになっていなかった。本研究では、遺伝解析や遺伝子導入による抵抗性付与試験により、Ty-2遺伝子を単離・同定する。

成果の内容・特徴

  • Ty-2抵抗性遺伝子は第11染色体長腕の2つのDNAマーカーSL11_25_54272とrepeat Aに挟まれた物理距離約200kbの領域に存在する(図1)。
  • この領域にはおよそ20の遺伝子が存在するが、典型的な病害抵抗性遺伝子ファミリーとして知られるNB-LRR(nucleotide-binding and leucin-rich repeat containing)遺伝子TYNBS1がただ一つ存在する(図1)。
  • TYNBS1は1,332アミノ酸からなるNB-LRRタンパク質をコードする。TYNBS1タンパク質はN末端にcoiled-coil domainを有するCC-NB-LRRサブファミリーに属し、ジャガイモ疫病抵抗性遺伝子R3a、トマト萎凋病抵抗性遺伝子I-2と最も配列の系統的関係が近い(図2)。
  • TYNBS1を含むゲノムDNA断片を罹病性トマトに導入した遺伝子組換えトマトはTYLCVのIL系統に対して抵抗性となる。このことはTYNBS1Ty-2抵抗性遺伝子の原因遺伝子であることを示す(図3)。
  • TYNBS1の遺伝子座が抵抗性型か罹病性型(=表現型が抵抗性か罹病性)であるかは、抵抗性型および罹病性型特異的プライマーを用いたPCR増幅断片の有無で判別できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • Ty-2抵抗性の原因遺伝子が特定されたことから、今後その強度な抵抗性の仕組みや、IL系統だけに抵抗性を示しMld系統に抵抗性を示さない原因についての分子生物学的解明研究が可能となる。
  • TYNBS1の塩基配列は抵抗性に直接連鎖した選抜マーカーとして利用できる。TYNBS1遺伝子近傍の抵抗性型(21.3kb、LC222648)および罹病性型(39.3kb、LC222649)のゲノム配列はDDBJで公開しており、マーカー作成や遺伝子機能解析に活用可能である。

具体的データ

図1 Ty-2の座乗範囲とTYNBS1の位置,図2 TYNBS1タンパク質と他のNB-LRRタンパク質との系統関係図,図3 TYNBS1導入による抵抗性付与,図4 特異的プライマーによるTYNBS1遺伝子座の抵抗性型および罹病性型配列の検出

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:山口博隆、大西純、斎藤新、大山暁男、布目司、宮武宏治、福岡浩之
  • 発表論文等:Yamaguchi H. et al. (2018) Theor. Appl. Genet. 131(6):1345-1362