アセトシリンゴン処理によるトルコギキョウの形質転換効率の向上

要約

アセトシリンゴンの存在下でトルコギキョウの葉切片とアグロバクテリウムの共存培養を行うことで、カルスの形成数とともに再分化したシュートの数が増加する。導入遺伝子を持つカルスの形成数も増加することで、形質転換体の獲得数が増加する。

  • キーワード:トルコギキョウ、アグロバクテリウム、アセトシリンゴン、遺伝子組換え
  • 担当:野菜花き研究部門・花き生産流通研究領域・栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6811
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

重要花き品目の一つであるトルコギキョウにおいて遺伝子の機能を明らかにするためには、目的遺伝子を導入した形質転換体を作成して表現型の変化を確認する必要がある。アグロバクテリウムを感染させて組換え体を作成する場合には、感染率の向上に寄与するvir遺伝子の発現を誘導する3′,5′-ジメトキシ-4′-ヒドロキシアセトフェノン(アセトシリンゴン)を用いる方法がしばしば用いられる。一般には、アセトシリンゴンを加えてアグロバクテリウムを培養し、その後にアグロバクテリウムを葉切片に接種する接種前処理が行われている。ただしトルコギキョウに関しては、接種前処理を行っても形質転換体の作出が難しい。感染効率の向上によるカルス形成数の増加のためには、アグロバクテリウムの細胞への侵入と遺伝子組換えが起こる、葉切片との共存培養時にアセトシリンゴンを加える方法が有効だと期待される。本研究では、本方法によるトルコギキョウの形質転換効率の向上効果を検証する。

成果の内容・特徴

  • 本研究で開発したトルコギキョウ形質転換体の作出方法を図1に示す。本方法を用いた場合、葉切片あたり約0.5個の形質転換体が得られると期待される。
  • アセトシリンゴンを用いない場合にはカルスは形成されず、接種前のアグロバクテリウムにアセトシリンゴン0.1mM処理を行うと、葉切片当たりのカルス形成数は約0.01個になる(図2)。共存培養時にアセトシリンゴン0.01mMおよび0.1mMを加えると葉切片当たりのカルス形成数はそれぞれ約1.2個及び2.2個に著しく向上する(図2)。β-glucuronidase(GUS)活性で評価すると、得られたカルスの約80%に目的遺伝子の導入が認められる(図2)。
  • 得られたカルスで再分化を誘導すると約60%からシュートが得られる(図3)。得られたシュートの葉からGUS遺伝子が検出され、目的遺伝子を導入した形質転換体であることが確認される(図3)。シュートを4葉展開程度まで生育させ、MS固体培地(2%スクロース、1mg/L NAA)で1週間程度発根誘導し、MS固体培地(2%スクロース)に挿し芽することで植物体となる(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 従来より小さな作業規模で効率よく形質転換体を得ることが期待される。
  • 無菌条件で10~15葉対程度まで生育させたトルコギキョウ品種「天竜ホワイト」を用いた結果である。形質転換カルスの形成については「紫盃」を用いても同様の結果が得られることを確認している。
  • Rhizobium radiobacter LBA4404株、CaMV35S:GUSNOS:Kanrを有するバイナリベクターpBI121を用いた結果である。

具体的データ

図1 トルコギキョウ形質転換体の作出方法,図2 アセトシリンゴン処理によるトルコギキョウ形質転換効率の向上,図3 トルコギキョウ形質転換体作出

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:中野善公
  • 発表論文等:Nakano Y. (2017) JARQ. 51(4):351-355