多収性の夏秋どり栽培向け四季成り性イチゴ品種「夏のしずく」

要約

四季成り性のイチゴ品種「夏のしずく」は寒冷地・高冷地における夏秋どり栽培に適しており、国産イチゴの端境期である6月~11月に収穫可能で、3t/10a以上の収量が見込める。輸送性や日持ち性に関わる果実硬度は高く、食味も良好で、業務需要に適している。

  • キーワード:イチゴ、四季成り性、夏秋どり栽培、端境期生産、業務需要
  • 担当:東北農業研究センター・畑作園芸研究領域・施設野菜・育種グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

イチゴは生食用やケーキ等業務用として年間を通して需要があるが、6月から11月にかけての夏秋期は生産量が落ち込み端境期となっている。国内の寒冷地・高冷地では、その冷涼な気候を活かして、6月から11月を中心とした時期に主に業務用に果実を出荷する夏秋どり栽培が行われ、高単価販売による高収益経営が実現されている。しかし、これらの作型に用いられている既存品種は収量性や果実特性の改良が求められており、例えば「なつあかり」は、食味は良いが、収量性や、輸送性・日持ち性に関わる果実硬度に改良の余地がある。そこで、夏秋期の業務需要に対応するため、収量性や果実硬度を改良した品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「夏のしずく」(旧系統名:イチゴ盛岡37号)は、2011年に多収性の四季成り性品種「みやざきなつはるか」に、果実硬度が高い四季成り性の育成系統06sAB-4e(「なつあかり」×盛岡30号)を交配した実生集団から選抜した四季成り性品種である。
  • 草姿は"立性"で、草勢は強く、ランナーの発生本数は多い(図1、表1)。
  • 四季成り性であり、端境期である夏秋期に収穫できる。「なつあかり」や「サマーベリー」より収量が多く、夏期冷涼な立地ではこれらの品種の1.4~2.4倍となる3t/10a以上の商品果収量が見込める(表2)。商品果平均1果重は「なつあかり」と同程度であり、果実の揃いが良く、商品果率は高い(表2、表3)。
  • 果実は"円錐形"で、果皮色は"赤"、果肉色は"淡赤"である。痩果深度は"果皮並"で、夏秋どり栽培において問題となりやすい種子浮き(種子が表面に強く突出する状態)が生じにくい(図1、表3)。輸送性・日持ち性に関わる果実硬度は「なつあかり」や「サマーベリー」より高く、夏秋期における業務需要に適する。糖度は「サマーベリー」と同程度に高く、酸度は「なつあかり」より高く「サマーベリー」より低く、食味は良好である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:業務用イチゴ契約生産者を含む国内の夏秋イチゴ生産者・生産法人、業務用イチゴ利用業者等。本品種は、農研機構東北農業研究センター、青森県産業技術センター野菜研究所、岩手県農業研究センター、宮城県農業・園芸総合研究所、秋田県農業試験場および山形県の共同研究にて育成された系統であるが、利用許諾先・栽培地域の限定等はない。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:
    東北地方や北海道などの寒冷地、本州の高冷地などの夏秋どりイチゴ産地約100haを対象として、国内イチゴ生産の振興および輸入品の置換により、現在の夏秋イチゴ生産の5割相当額(50億円)を創出する。
  • その他:種苗(親株)はR3年度から供給開始。

具体的データ

図1 「夏のしずく」の草姿と果実,表1 夏秋どり栽培における形態的特性,表2 夏秋どり栽培における収量特性,表3 夏秋どり栽培における果実特性

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2020年度
  • 研究担当者:
    本城正憲、塚崎光、由比進、片岡園、濱野惠、奥聡史、細田洋一(青森産技セ)、對馬由記子(青森産技セ)、東秀典(青森産技セ)、山田修(岩手農研)、鈴木朋代(岩手農研)、大鷲高志(宮城農園研)、高山詩織(宮城農園研)、尾形和磨(宮城農園研)、鹿野弘(宮城農園研)、佐藤友博(秋田農試)、山崎紀子(山形県)、藤島弘行(山形県)
  • 発表論文等:本城ら「夏のしずく」品種登録出願公表第35039号(2021年3月4日)