圃場で湿潤土壌のガス拡散係数を簡易に測定できる「ガス拡散係数測定装置」

要約

入手が容易な可燃性ガスをトレーサーガスとし、半導体式ガスセンサーで計測することで、簡易に湿潤土壌のガス拡散係数を測定できる装置である。圃場において計測できるため、根の酸素欠乏の原因等となる圃場のガス移動特性の評価・診断に有効である。

  • キーワード:ガス拡散係数、水田転換畑、簡易測定、湿害、土壌構造
  • 担当:東北農業研究センター・水田作研究領域・水田環境グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

湿害は酸素不足による根の伸張阻害を引き起こし、わが国の畑作における大きな低収要因である。湿害が生じやすい土壌構造を評価するためには、圃場原位置におけるガス拡散係数を数リットル程度の比較的大きなスケールで計測できることが望ましい。そこで、本研究では入手が容易な可燃性ガスをトレーサーガスとし、半導体式ガスセンサーで定量することで、上記の条件を満たし、かつ簡易に湿潤土壌のガス拡散係数が測定できる装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本装置は、円筒部と電源・ロガー部とから構成され(図1)、以下の手順で相対ガス拡散係数を求めることができる。
    • 円筒を上部に空間ができるように土壌に挿入し、蓋をすることでチャンバー部を密閉、トレーサーガスをチャンバー部に注入する。
    • トレーサーガスが土壌中に拡散し、チャンバー部のガス濃度が減衰する速度をロガーで記録する。
    • 測定終了後、円筒内の土壌を回収し、以下の式で気相率を求める。気相率=土壌の体積―土壌の絶乾重×真比重(不明の場合は2.65)
    • 得られた値から相対ガス拡散係数を計算する。
  • 相対ガス拡散係数は半無限の拡散方程式を解くことで求める(図2、図3)。市販装置にはMicrosoft Excelによる計算ファイルが付属しており、これを利用して容易に計算することができる。
  • 開発した手法では、トレーサーガスにはカセットガス等として入手が容易なイソブタンガスを用い、イソブタンガスの定量には汎用的な半導体式ガスセンサーを用いる。このため装置の製造費は比較的安価で、高額分析機器を要さず、保守も容易である。
  • 農研機構東北農業研究センター(大仙市)の転換畑での測定例を図4に示す。この事例では、下層土の相対ガス拡散係数は酸素欠乏によって根の伸張を抑制する0.02を下回ることがあり、下層土の土壌構造は根の伸張に不適であると診断できる。一方、作土は根の伸張に問題がない。

普及のための参考情報

  • 普及対象:公設研究機関および普及指導機関
  • 普及予定地域・普及面積・普及台数等:全国・40台
  • その他
    • 本装置は大起理化工業から購入可能である(DIK-6405)。測定法の詳細は市販装置のマニュアルまたは農研機構によるマニュアル(発表論文等に記載)を参照する。
    • 一度の測定に要する時間は試料の性質によるが、概ね30分から1時間程度である。・酸素欠乏によって根の伸張が抑制される相対ガス拡散係数は0.02であり、この値がガス移動特性の診断基準となる。
    • トレーサーガスとして用いるイソブタンガスは強く乾燥した土壌には吸着する性質があり、正確な測定ができないので、本測定装置は湿害が問題となるような湿潤土壌の測定に限って用いる。

具体的データ

図1 ガス拡散係数測定装置の外観(左)と測定時の円筒部の模式図(右),図2 相対ガス拡散係数の算出法,図3 イソブタンガス濃度の減衰速度から相対ガス拡散係数D/Doを求める例,図4 農研機構東北農業研究センター(大仙市)の転換畑における相対ガス拡散係数(D/D0)の測定例

その他