寒冷地の雇用型大規模水田作経営におけるニンニク作導入の効果

要約

寒冷地の雇用型大規模水田作経営のニンニク作導入は、他産業従事者並みの農業所得(1人当たり500万円)の確保、1人当たり2,000時間の就業機会創出、1年を通した常雇・家族労働力の平準化に貢献する。上記所得の確保には、単収430kg/10a(単価1,600円/kg)が必要である。

  • キーワード:経営的評価、水田作、水田野菜作
  • 担当:東北農業研究センター・生産基盤研究領域・農業経営グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、雇用を導入する大規模水田作経営において所得向上・1年を通した労働機会の確保を目的に野菜作の導入が進んでいる。冬期における作物生産が難しい東北地域において年間就業の達成は重要な課題であるが、労働集約的な野菜作の導入が収益部門に位置づかない可能性も大きい。そこで、降雪地である青森県津軽地域において、冬期の作業創出が期待できるニンニク生産を行う雇用型大規模水田作経営であるN経営を対象として、線形計画法を用いたモデルシミュレーションにより、ニンニク作導入の効果を明らかにする。導入効果の視点として、ニンニク作の導入により当該地域の他産業並みの所得(1人当たり500万円)、労働時間(1人当たり2,000時間)を確保可能であるか、労働力が年間を通して平準化するかを分析する。また、他産業並みの所得を確保するためのニンニク作の単収や単価の条件についても明らかにする。

成果の内容・特徴

  • モデルシミュレーションの前提条件について、表1に示す。ニンニク作の変動利益・労働時間は他作目に比べてかなり大きい。ニンニク作の栽培体系について、収穫後、JA冷蔵庫に入庫し貯蔵することで、農閑期(主に冬期)における作業が可能になる。植付機や収穫機、選別機を利用するが、調製作業時に加え、機械作業時にも人力を多く必要とするため各作業時間は小さくない。
  • ニンニク作導入前のシミュレーション(表2①)では、水稲を65ha作付し、家族・常雇一人当たり農業所得は423万円、家族・常雇一人当たり労働時間は、951時間である。
  • ニンニク作導入後の条件によるシミュレーション(表2②)では、ニンニク作が1.49ha導入され、一人当たり農業所得は、557万円に増大する。また、一人当たり労働時間は、2,008時間まで拡大する。他産業並みの所得・労働時間を達成している。一方で、ニンニク作導入後の1時間当たり所得は、ニンニク作導入前より低いが、ニンニク作導入により未利用な労働力を利用し、空いた時間に所得を生み出すことができると考えられる。また、シミュレーション結果におけるニンニク作1時間当たり所得は1,022円であり、青森県における他産業雇用賃金を上回っている。冬期の農外就業より、ニンニク作の導入が優先される可能性が高いことが示唆される。
  • 旬別労働時間についてみると(図1)、①では、水稲移植時期である5月中旬に大きなピークを形成し、夏期(6~8月)、冬期(11~3月)は農閑期である。②では、大きなピークが5月中・下旬、6月下旬、7月上・中旬に形成されている。夏期については、ニンニクの収穫・選別や種子こぼしにより、就業機会が確保されており、冬期については調製、出荷作業がある。年間を通して家族・常雇の労働時間が平準化されたと言える。
  • ニンニク作の単収・単価変動時の一人当たり農業所得を図2に示す。ニンニク作導入により他産業並みの所得を確保するには、調査時の単価1,600円程度では、単収430kg/10a以上が必要である。同様に、単価1,500円では単収470kg/10a、単価1,400円では530kg/10aが下限となる。

成果の活用面・留意点

  • 冬期における作物生産が難しい東北地域における、水田作経営の周年雇用・労働時間の平準化に向けた経営モデルとして、経営者に参考になる。
  • この経営モデルでは春期・夏期における女性・高齢者などの季節・臨時雇用の活用を前提としているため、当該時期における労働力確保が重要となる。
  • 本事例におけるニンニクの冬期の調製・出荷作業は、夏期以降のJA冷蔵庫での貯蔵を前提としている。

具体的データ

表1 モデルシミュレーションの前提条件,表2 シミュレーション結果,図1 シミュレーション結果における旬別労働時間,図2 ニンニク作の単収・単価変動時の一人当たり農業所得

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(H28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:稲葉修武、笹原和哉
  • 発表論文等:稲葉・笹原(2020)農村経済研究、38(2):47-57