東北地域での春まき・秋まき栽培の特性データに基づいたタマネギ品種・系統の分類
要約
国内外のタマネギ95品種・系統は、各2回の秋まき・春まき作型における特性データに基づいて、4つのグループに分類し、早生、中生および晩生を判定できる。また、両作型間で高い相関を示す形質については、栽培が容易で年次間差の小さい春まき作型による評価が可能である。
- キーワード:タマネギ、春まき作型、多変量解析、品種分類
- 担当:東北農業研究センター・畑作園芸研究領域・施設野菜・育種グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
東北地域向けに開発された春まき作型は、従来の秋まき作型と比べて在圃期間が3か月程度と短く、生産不安定の要因である低温期を経ないため、生産が安定する上、国産タマネギの端境期である7~8月に出荷可能となる優位性もあり、急速に普及面積が広がっている。また、この作型の特徴として、秋まきの早生品種から春まきの晩生品種まで、幅広い品種の栽培が可能である。一方、品種については、従来から、秋まき品種群や春まき品種群に大別され、各品種群の中に早生から晩生まで分類されており、早晩性という指標が一元化されていない。また、近年では、秋まき品種と春まき品種の中間型とみられる品種も育成されている。今後、東北地域等の新たな産地に適した品種選定や品種育成の上で、多様な品種・系統の特性を明らかにし、従来の品種群の枠にとらわれない再分類を行うことは重要である。そこで、国内で入手可能な品種・系統を用いて、秋まき・春まき栽培により各形質データを取得するとともに、多変量解析により品種群の特徴を見出し、新たな品種・系統の分類を試みる。
成果の内容・特徴
- 国内外の遺伝資源を含むタマネギ95品種・系統を用いた各2回の秋まき(2015秋, 2016秋)・春まき(2016春, 2017春)作型において、2か年取得した計30形質に基づく主成分分析により、収穫まで日数や出葉数等、主に生育の早晩に特徴付けられる第1主成分(寄与率33.4%)、りん茎径やりん茎重等、主にりん茎の形質に特徴付けられる第2主成分(寄与率18.0%)が見出される。これらの主成分スコアに基づく散布図は、従来の品種群を概ね反映したが、いくつかの秋まき早生品種は、秋まき中生品種が集中する位置にプロットされる(図1(a))。この傾向は、春まき作型29形質および秋まき作型21形質を用いた主成分分析でも同様である(図1(b)、(c))。
- 30形質データに基づくクラスター分析により、4つのグループに分類できる(図2)。このうち国内品種に関しては、早生(グループI)、中生(II)および晩生(III)にほぼ対応する。
- 春まき作型では、出葉数(0.93)、りん茎高(0.90)、定植から収穫までの日数(以下、収穫まで日数)(0.87)等で高い年次間相関を示す。一方、秋まき作型では、抽苔率(0.92)および収穫まで日数(0.81)で高い相関を示すが、各形質の相関は春まき作型より低下する傾向となる(表1)。秋まき作型は春まき作型よりも栽培期間が長く、環境条件の影響を受けやすいためと推察される。
- 各形質の両作型間における相関は、収穫まで日数(0.90)および球形比(0.86)は高い相関を示すが、りん茎径(0.48)およびりん茎重(0.41)では相関係数値がやや低くなる(表2)。両作型間で高い相関を示す形質については、栽培が容易で年次間差の小さい春まき作型による評価が可能である。
成果の活用面・留意点
- 従来の秋まき品種と春まき品種のそれぞれで早晩性を判定するのではなく、両品種群をまとめた早晩性(早生-中生-晩生)を判定できる。
- 春まき作型では、4月中旬の定植直後に肥大してりん茎形質を評価できない品種・系統が存在するほか、育種形質として重要な不時抽苔性については評価できないことに留意する。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2015~2019年度
- 研究担当者:塚﨑光、奥聡史、本城正憲、山崎篤、室崇人
- 発表論文等:塚﨑ら(2021)園学研、20:39-47