水稲幼植物試験による玄米放射性セシウム濃度の推定

要約

施肥前の水田作土土壌を使って水稲を14日間栽培して、水稲幼植物の放射性セシウム濃度を測定することにより、カリウムを施用せずに栽培した場合の玄米の放射性セシウム濃度を推定することができる。

  • キーワード:カリウム、玄米、水稲幼植物、土壌、放射性セシウム濃度
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・水田作移行低減グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所事故により避難指示が出された地域では、農地除染が実施されたものの放射性セシウム(134Csおよび137Cs)は土壌に残留しており、除染後初めての作物栽培においては収穫物の放射性セシウム濃度に対する不安が大きい。そのため、営農再開時における、収穫物の放射性セシウム濃度予測や基準値超過リスクの評価技術が求められている。そこで、本研究では栽培前の土壌を用いて、玄米の放射性セシウム濃度を予測する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 栽培前の水田から採取した作土土壌(表1)で栽培した水稲幼植物137Cs濃度は、土壌を採取した水田においてカリウムを施用せずに生産した玄米137Cs濃度と正の相関関係を示す(図1)。
  • 水稲幼植物の栽培・採取方法は以下の通りである。風乾・篩別(2 mm)した供試土壌80 gにイオン交換水50 mL を加えて小型容器(117×84 mm 高さ28 mm)内で代かきをし、交差汚染を防止するために非汚染土5 gで供試土壌を覆う。供試土壌に施肥はしない。催芽種子(乾籾で5 g、コシヒカリ)を非汚染土上に播種し、3日間28°C暗条件で出芽させる。出芽後はイオン交換水を高さ約30 mmまで満たしたトレイに小型容器を並べて明期12時間30°C、暗期12時間25°C、相対湿度70%、光量子束密度900 μmol/m2/sで、出芽11 日後まで栽培する。非汚染土から約5 mm 高で切断・採取した幼植物の137Cs濃度を分析する。

成果の活用面・留意点

  • 水稲栽培前に、カリウム無施用における玄米の放射性セシウム濃度を推定することができる。
  • 水田における栽培と土壌採取年は2016年および2017年である。また、水田での栽培品種はコシヒカリとふくひびきである。
  • 本研究の実施環境下において水稲幼植物137Cs濃度270 Bq/kgの分析に要する時間は、ゲルマニウム半導体検出器を用いて約3時間である。
  • 出芽後の水稲幼植物の栽培条件は揃えることが望ましいが、人工気象室等を使用できない場合には水稲幼植物の生育に適した環境条件下にあるガラス温室等で栽培することができる。

具体的データ

図1 幼植物137Cs濃度による玄米137Cs濃度の推定(平均値±標準偏差、n=3),表1 供試土壌の土性、土壌分類、土壌中137Cs濃度および土壌中交換性カリ含量,図2 水稲幼植物の栽培

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:藤村恵人、石川淳子、若林正吉、信濃卓郎、新妻和敏(福島県ハイテクプラザ)
  • 発表論文等:藤村ら(2020)土肥誌、91:237-244