水田へのポット埋め込み試験による玄米放射性セシウム濃度上昇リスクの評価

要約

移植直後の水田に埋め込んだポット内で水稲を栽培し、成熟期の土壌中交換性カリ含量および玄米放射性セシウム濃度を分析することにより,カリ施用量が不十分な栽培管理を数年続けた場合の交換性カリ含量の減少リスクおよび玄米放射性セシウム濃度の上昇リスクを評価できる。

  • キーワード:玄米、交換性カリ含量、放射性セシウム濃度、ポット、リスク
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・水田作移行低減グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所事故により放射性セシウム(134Csおよび137Cs)が沈着した地域において安定した農業経営を行うためには、収穫物の放射性セシウム濃度を基準値以下にする必要がある。稲作においては通常施肥前の土壌中交換性カリ含量を25 mg/100g以上にすることを目標にカリ追加施肥が行われてきたが、安全性を確認する試験を経て、カリ追加施肥の中止が進んでいる。カリ施用量が不十分な栽培管理を続けると土壌中交換性カリ含量が減少し、玄米の放射性セシウム濃度が上昇する水田があるものの、そのような水田を特定する方法は確立されていない。そこで、個々の水田における将来の玄米の放射性セシウム濃度上昇リスクを評価する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • ポット埋め込み試験の方法は以下の通りである(図1)。栽培には1/10000aポット(直径113 mm,高さ140 mm)を用い、中干期の過乾燥を防ぐために底面に直径10mmの穴をあけ、根の伸長を防ぐために穴を不織布でふさぐ。施肥・耕起・代かきが行われた水田での移植作業時に、水田の作土土壌をポットへ充填し、水稲苗を3本1株で移植する。ポット底面が鋤床層に接する程度にポットを水田へ埋め込む。成熟期にポット内の土壌および玄米を採取する。
  • 水田Aでは、カリ無施用栽培を2016年から4年間継続すると、交換性カリ含量が減少し、玄米137Cs濃度は上昇する(図2)ことから、カリ施用が不十分な場合の玄米137Cs濃度の上昇リスクは高い。一方、2017年に移植直後の水田土壌を充填して水田に埋め込んで水稲を栽培したポット内では、ポット外に比べて、交換性カリ含量が少なく、玄米137Cs濃度は高い(図3)。
  • 水田Bでは、増減はあるものの、カリ無施用栽培における交換性カリ含量および玄米137Cs濃度の経年変化に一定の傾向はない(図2)ことから、カリ施用が不十分な場合の玄米137Cs濃度の上昇リスクは低い。一方で、ポット内外の交換性カリ含量は同程度であり、玄米137Cs濃度はポット内外とも低い値である(図3)。
  • 水田におけるカリ無施用栽培による交換性カリ含量と玄米放射性セシウム濃度の経年変化は、ポット内外の差と類似している。これは、ポットにおいては根域が制限されるため、土壌からのカリ収奪が促進されるためと考えられる。
  • ポット内の交換性カリ含量および玄米放射性セシウム濃度をポット外と比較することにより、数年後の交換性カリ含量の減少リスクおよび玄米放射性セシウム濃度の上昇リスクを評価できる。

成果の活用面・留意点

  • カリ施用量が不十分な栽培管理を数年続けた場合の玄米放射性セシウム濃度の上昇リスクを評価できる。
  • 水田土壌の土性、土壌分類および土壌中137Cs濃度は表1に示す。
  • 本研究は水田2筆での結果であり、今後、多数の水田において検証する必要がある。

具体的データ

図1 水田へのポット埋め込み試験,図2 カリ無施用栽培における収穫時の土壌中交換性カリ含量と玄米137Cs濃度の経年変化,図3 埋め込みポット内・外における収穫時の交換性カリ含量および玄米137Cs濃度(平均値±標準偏差、n=3~4),表1 水田土壌の土性、土壌分類および土壌中137Cs濃度

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)、競争的資金(科研費)、その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:藤村恵人、石川淳子、若林正吉、新妻和敏(福島県ハイテクプラザ)、信濃卓郎(北海道大)
  • 発表論文等:藤村ら(2020)土肥誌、91:237-244