麦作難防除雑草カラスムギの出芽パターンには地域内で明瞭な変異がある

要約

麦作難防除雑草カラスムギの出芽パターンは集団間で変異があり、種子生産年内に概ね出芽を完了するタイプや、当年の出芽は少なく、2年目以降に出芽ピークが存在するタイプ等もある。出芽の早晩と土中での種子の生存期間には関連が見られ、埋土深度に対する種子の発芽反応も異なる。

  • キーワード:カラスムギ、出芽パターン、埋土深度、集団間差異、埋土種子持続性
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・営農再開グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カラスムギは麦類に同調した生活史を持ち、麦類との選択性のある除草剤が日本では2020年現在未登録であることなどから、麦作における難防除雑草である。特に固定転換畑では有効な防除手段に乏しく、その対策が求められ続けている。
雑草の出芽パターンおよび埋土種子の持続性に関する情報は総合的防除対策の確立とその評価において不可欠である。そこで、本研究ではカラスムギの出芽不斉一性の実態を解明するため、茨城県西部に自生するカラスムギ集団間の種子埋土深度が出芽パターンおよび土中種子の持続性に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 茨城県西部に自生するカラスムギ4集団間には出芽時期の明瞭な変異が存在する。出芽の早いタイプ(図1AC)は種子生産年に出芽の大半を完了し、2年目以降の出芽は少ない。一方、遅いタイプ(図1D)は種子生産年の出芽は少なく、冬期に1次の出芽が生じ、2年目、3年目の秋期にも出芽が続く。中間のタイプ(図1B)はその中間的パターンを示す。
  • 出芽パターンの異なる集団間では、埋土深度に対する出芽反応が異なり、出芽の早いタイプでは埋土深度の増加とともに出芽速度が低下するのに対し(図2左)、出芽の遅いタイプでは地表面種子の出芽割合は少なく、土中15~20cmに埋設した種子の出芽が早い(図2右)。
  • 出芽の早晩と土中種子の生存割合には関連が見られ、土中深くに埋設した種子は、出芽の早い集団では6ヶ月以内に大半が土中発芽で死滅するのに対し、出芽の遅い集団では休眠状態にある(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 出芽の早晩は土壌処理型除草剤の効果および麦類遅播き、石灰窒素施用などの各種防除対策の効果に大きく関与する形質であり、一般的に出芽の遅いタイプほど防除が困難である。本草種の出芽不斉一性の特徴化は総合防除体系の評価と立案の基盤情報となる。
  • カラスムギは茨城県西部(つくば市2地点および坂東市、古河市各1地点)に自生する集団(麦圃場とその周縁部の概ね数m四方)の複数個体からバルク採種し、つくば市の同一条件で採種栽培して増産した種子を供試して得られた結果である。出芽パターンの変異の地理的、立地的差異については今後検討する必要がある。

具体的データ

図1 茨城県西部に自生するカラスムギ4集団の出芽パターン,図2 茨城県西部に自生するカラスムギ2集団の種子埋土深度と出芽パターンとの関係,図3 茨城県西部に自生するカラスムギ4集団の土中25cm深に6ヶ月埋設した種子の生存状況

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(麦緊急開発)
  • 研究期間:1999~2004、2019年度
  • 研究担当者:浅井元朗
  • 発表論文等:浅井(2020)雑草研究、65:103-109