ホンシュウジカのメス成獣が高確率で接触する箱わなでの蹴り糸の位置は肩高の10cm~30cm下である

要約

ホンシュウジカのメス成獣の肩高の10cm~30cm下に蹴り糸を設置することによってメス成獣に高確率で蹴り糸に接触させることができる。高確率で接触する体の部位は、前肢ではなく、頭部・頚部と胸部・背部である。これにより、シカのメス成獣の捕獲効率を上げることが期待できる。

  • キーワード:箱わな、ホンシュウジカ、蹴り糸、メス成獣、高さ
  • 担当:西日本農業研究センター・畜産・鳥獣害研究領域・鳥獣害対策技術グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンジカによる農作物被害が全国的に問題になっている。被害防止のためには、環境管理、侵入防止対策、加害獣の捕獲という3つの対策を総合的に組み合わせて行うことが重要である。被害防止に効果的な加害獣の捕獲を行うためには、農地周辺でメスの繁殖可能な個体を捕獲する必要がある。農地周辺で捕獲する際には、安全性や機動性の高い箱わなを用いることが適している。しかし、ニホンジカに関しては箱わなでの捕獲技術については十分な情報が少ない。箱わなの落とし扉を落とすための作動装置として、蹴り糸を用いたものがよく使用されているが、その適正な設置位置に関する科学的な情報がない。そこで、飼育下のホンシュウジカ(ニホンジカの亜種)のメス成獣が高確率で接触する蹴り糸の位置(箱わなの床面からの高さと誘引餌からの距離)を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ホンシュウジカのメス成獣の飼育個体(肩高70cm~75cm)では、誘引餌からの距離(以下距離)に関わらず、蹴り糸の高さが40cmから60cmの時に蹴り糸との接触確率が0.76~0.89と高確率である(写真1、図1)。
  • 接触部位ごとにみてみると、頭部・頚部は餌からの距離が20cmの時に接触割合が高い傾向がみられる(図2a)。胸部・背部は餌からの距離が40cmと50cmの時に接触割合が高い傾向がみられる(図2b)。前肢の接触割合は全般的に低い(図2c)。
  • 接触割合の高い部位の位置の参考となる外部形態の計測値は肩高である。肩高の10cm~30cm下に蹴り糸を設置することで接触確率を高くすることができる。

成果の活用面・留意点

  • 農作物被害防止のために農地周辺においてシカの加害個体(メス成獣)を効率的に箱わなで捕獲する際に有用である。
  • ニホンジカは6種類の亜種があり、体サイズの地理的な変異は大きい。キュウシュウジカの肩高は約60cmで、エゾジカの肩高は100cm以上。捕獲を行う地点のメス成獣のおおよその肩高を把握する必要がある。また、オスについては角の成長、落角時期など検討要素が多く、メスと同様の本数値を得るにはさらに多くの試験を要する。
  • 本研究のデータは赤外線式の作動装置の設置位置や距離センサーを用いた作動装置の設定にも応用可能である。

具体的データ

写真1.試験時の概況。ワイヤーメッシュ製の移動檻(5cm格子、高さ1.2m、奥行1.5m)の高さを1mに改良して箱わなの代用とした。黄色のポリエステル製の水糸を蹴り糸の代用とした。,図1 シカの蹴り糸への接触確率と蹴り糸の位置(距離と高さ)との関係.,図2 シカの体の部位ごとの蹴り糸への接触割合と蹴り糸の位置との関係(a.頭部・頚部,b. 胸部・背部,c. 前肢).

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:上田弘則、堂山宗一郎、石川圭介、江口祐輔
  • 発表論文等:上田弘則ら(2020)野生生物と社会、8:33-41