利用生産者の評価構造からみたカンキツのマルドリ方式の評価

要約

評価グリッド法を用いたマルドリ方式利用生産者のマルドリ方式評価要因の見える化で明らかになった本技術の利点は、果実収量や品質の向上、労働負荷の軽減であり、一方課題点は不適切な設備設置や利用上のトラブルへの対応方法に対して不安感を感じていること等である。

  • キーワード:カンキツ、マルドリ方式、生産者の評価、評価グリッド法
  • 担当:西日本農業研究センター・傾斜地園芸研究領域・傾斜地防災グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

TPP 等関連農業農村整備対策として、農林水産省は畑地・樹園地の高機能化等を推進している。このため、樹園地の高機能化手法であるカンキツのマルドリ方式は非常に有用な技術であり、徐々に普及が進んでいる。技術等の普及には利用を検討している人の心理的な要因も影響するため、今後一層普及を進めるために、本技術の利用者が感じている心理的な要因を解析し、好ましいと評価する理由(技術の利点)や好ましくないと評価する理由(技術の課題点)を整理し、対応策を講じることが重要と考えられる。そこで本研究では、人間の評価プロセスを明らかにできる環境心理学的手法である評価グリッド法(図1)を用いて、マルドリ方式を利用する生産者のマルドリ方式に対する評価を階層的に明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 評価グリッド法により、マルドリ方式を利用するカンキツ生産者がマルドリ方式を好ましいと評価する主な要因(技術の利点)は、A)収益、B)収量、C)品質、D)樹体、E)労働負荷の5点に分類できる(表1)。
  • 好ましいとの評価を決定する主な理由では、A)収益に関しては、品質向上や除草が不要になることによる経費節減等がある。B)収量に関しては、必要に応じた液肥利用による樹勢改善がある。C)品質に関しては、マルチシートの設置による褐色腐敗病防止や点滴灌水の効果的利用で果実品質を制御できることがある。D)樹体に関しては、点滴灌水を利用した適切な生育制御による樹体への負担軽減や、効率的な施肥で樹体回復を図れることがある。E)労働負荷に関しては、除草、灌水及び施肥の省力化、労働負荷軽減により他の作業に時間が利用できる等がある。
  • 一方、生産者がマルドリ方式を好ましくないと評価する主な要因(技術の課題点)は、a)施設、b)利用、c)トラブル、d)マニュアル、e)獣害・病害虫の5点に分類できる(表2)。
  • 好ましくないと評価を決定する主な理由は、a)施設設置に関しては、マルチシートや点滴灌水チューブの不適切な設置により十分な効果が得られないことである。b)利用に関しては、マルチシートや液肥作成に関する管理作業の増加、マルチシート下が見えない不安等がある。c)トラブルに関しては、台風襲来時や草刈り時の資材の損壊や、管理の粗放化、耐用年数がわからないことに対するシステムの信頼性の問題がある。この他、d)マニュアルがないことに対する不安、e)虫害による樹体、獣害による設備への被害に関することがある。

成果の活用面・留意点

  • 本成果で明らかとなったマルドリ方式を利用している生産者が良い点と考えている事柄は、普及活動において強くアピールすべきであり、逆に課題点と考えていると明らかになった事柄は、その対応策の検討およびマニュアル等の整備に活用していく。
  • 聞き取り調査は、三重県紀南地域の生産者14人、愛媛県今治市上浦町の生産者7人を対象に実施した。両地区の樹園地は、概ねなだらかな傾斜地に立地する。

具体的データ

図1 評価グリッド法による聞き取り調査の過程と得られる評価構造の一例,表1 評価グリッド法により明らかになった生産者がマルドリ方式を好ましいと評価する主な決定要因,表2 評価グリッド法により明らかになった生産者がマルドリ方式を好ましくないと評価する主な決定要因

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:廣瀬裕一、齋藤仁藏、國賀武
  • 発表論文等:廣瀬ら(2020)農土論集、88:II_75-II_86