早晩性の異なる品種を組み合わせた極短穂茎葉型WCS用イネの長期収穫体系

要約

極短穂茎葉型WCS用イネの栽培において、早生品種「つきはやか」を晩生品種「つきすずか」と併用することにより、「つきすずか」単独と比較して、収量および飼料品質を維持しつつ長期間(9月上旬~10月下旬)の収穫が可能となる。

  • キーワード:イネ、ホールクロップサイレージ、出穂期、品種間差
  • 担当:西日本農業研究センター・水田作研究領域・栽培管理グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物体全体を収穫し乳酸発酵させる発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ、WCS)用のイネは、水田の有効活用と飼料自給率の向上に貢献する作物として生産が推進されている。中でも、穂が小さく、子実割合の小さい極短穂茎葉型WCS用イネは、耐倒伏性が強く、栄養価に優れ、乳酸発酵に必要な単少糖の含有率が高いなどの特性を有しており、普及が拡大している。しかしながら、代表的な極短穂茎葉型品種である「たちすずか」や「つきすずか」は感光性が強く晩生であり、移植時期を変えても出穂時期の変動は小さいため、これらの品種単独では収穫適期が10月に限られる。
そこで本研究では、早晩性の異なる極短穂茎葉型飼料イネ品種の併用による収穫可能期間の拡大を目指し、近年育成された早生品種「つきはやか」と晩生品種「つきすずか」の収穫時期別の収量・飼料成分を明らかにし、これら2品種を併用する長期収穫利用体系を確立する。

成果の内容・特徴

  • 移植日や施肥等の条件を揃えて栽培した場合、10月は晩生品種「つきすずか」のほうが乾物収量が有意に多いが、9月後半までは早生品種「つきはやか」でも「つきすずか」と同程度の収量が得られる(図1a、2a)。
  • 可消化養分総量(TDN)含有率は9月後半までは「つきはやか」のほうが高いか同程度であり、10月は「つきすずか」のほうが高いか同程度となる(図1b、2b)。その結果、TDN収量は、10月は「つきすずか」のほうが多くなるが、8月後半~9月は「つきはやか」のほうが多いか同程度となる(図1c、2c)。
  • 茎葉部の水溶性炭水化物(WSC)含有率は、8月後半~9月では「つきはやか」のほうが「つきすずか」よりも高い傾向となり(図1d、2d)、より良好な乳酸発酵が期待できる。一方で、「つきすずか」では経時的に増加し、10月には「つきはやか」よりも高いか同程度になる。
  • これらの結果から、極短穂茎葉型WCS用イネ「つきはやか」と「つきすずか」を併用する体系では、9月に「つきはやか」、10月に「つきすずか」を収穫することにより、9月上旬~10月下旬の長期間、収量を維持しつつ良質なWCS用イネの収穫が可能となる(図3)。これにより、無理のない作付面積の拡大や専用収穫機の稼働率向上が図られ、収穫調製コストの低減やコントラクター活用機会の拡大につながる。

成果の活用面・留意点

  • 本収穫体系は「つきすずか」の栽培適地(関東以西)であれば適用可能であるが、示したデータは広島県福山市で実施した試験のものであり、収量や成分は地域や施肥量によって変動する。
  • 「つきはやか」は「つきすずか」ほど感光性が強くないため、移植時期によって出穂時期に変動が生じる。そのため、品種によって移植時期を変える場合には、収穫可能期間が長くなるよう「つきはやか」を先に移植する。
  • TDNはNRC2001年版推定式による推定値、WSCはF-kitで測定したグルコース、フルクトース、スクロースの合計値。

具体的データ

図1 同一収穫日における極短穂型WCS用イネ2品種の収量と飼料成分(2017年),図2 同一収穫日における極短穂型WCS用イネ2品種の収量と飼料成分(2018年),図3 早晩性の異なる極短穂型WCS用イネ2品種の併用による長期収穫体系(瀬戸内海沿岸地域)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:小林英和、中込弘二、千田雅之
  • 発表論文等:小林ら(2021)日作紀、90:83-91