タマネギ直播栽培において溝底播種とリン酸直下施肥が畝立てと同時に行える作業機

要約

本作業機は、耕うん、畝立て、畝の上に溝を成型、溝底に施肥、播種および施薬を1工程で行うことが可能で、出芽や生育を促進することができる溝底播種技術とリン酸直下施肥技術を畝立て栽培下で同時に活用することができる。

  • キーワード:タマネギ、直播栽培、リン酸直下施肥、溝底播種
  • 担当:九沖研・暖地畑作物野菜研究領域・施設野菜グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

タマネギの移植栽培体系では、育苗期間が長く、本圃の栽植密度も24,000本/10a程度と多い。このために、多くの労働時間と資材が必要で、生産費を高くする要因になっている。直播栽培は、育苗・移植作業が不要で労働時間や生産費を削減できるが、天候の影響を受けやすく生産が不安定である。出芽や生育を良くする技術として溝の底に播種する溝底播種技術、タマネギの生育を促進する技術としてリン酸を種子の直下に施肥するリン酸直下施肥技術が開発されてきた。しかし、畝立て栽培下でこれらの技術を利用することが難しかった。そこで、直播栽培による安定生産と作業時間の削減を目指して、溝底播種とリン酸直下施肥を畝立てと同時に1工程で行える作業機を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本作業機は、アップカットロータリ、畝及び溝成型機、施肥機、ベルト式播種機、施薬機で構成される。(図1)。畝表面の土を細かくして畝を成型すると同時に畝の上に小さな溝を4本成型し、その溝底に直下施肥および播種を行い、さらに農薬(粒状)散布を行うことができる。これにより、溝底播種技術とリン酸直下施肥技術を畝立て栽培下で同時に活用することができる。
  • 成型される畝形状は、幅が1500mm、高さが200mmもしくは250mmである。溝幅は100mm、溝深さは50mm程度である(図2)。1畝4条で、条間は200mmもしくは240mmに調節できる。また、施肥深さは80mmの一定で、圃場条件に合わせて、肥料の覆土厚と種子の覆土厚が調節でき、播種深さは、肥料に種子が接しないようにする。
  • トラクタの適応馬力は28PS以上である。圃場条件の良い場合で、作業速度は1.0km/h程度が上限であり、機械の調整や旋回を考慮すると面積当たりの作業時間は、1.5時間/10a程度になる。
  • 畝の上に溝底播種をすること(以後、溝畝播種)によって湿害を防止し、平畝に播種する場合と比べて、種子周辺の土壌水分が高く維持され、地温が日中は低く夜間は高くなり(データ略)、出芽と生育が促進される(図3)。ただし、播種直後に降雨がある場合は、出芽の促進効果は明らかではなく、さらに豪雨では、溝が埋まり出芽率が低くなる場合がある。溝畝播種と過リン酸石灰を直下施肥することによって、発芽直後からリン酸を効率良く吸収でき、生育が促進され、収量が増加する(図3、表1)。
  • 移植栽培と比較して、育苗に関係する作業や施設などが不要になり、作業時間と固定費がそれぞれ3割程度削減できると試算される。

普及のための参考情報

具体的データ

図1 開発した作業機,図2 畝の形状および肥料と種子の位置,図3 溝畝播種とリン酸直下施肥が出芽率と葉鞘径に与える影響

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(食料生産地域再生のための先端技術展開事業、大規模露地野菜の効率的栽培管理技術の実証研究)
  • 研究期間:2014~2021年度
  • 研究担当者:松尾健太郎、臼木一英、室崇人、山崎篤、山本岳彦、東野裕広(JA全農)、末貞辰朗(JA全農)、宮嵜航(JA全農)、八木田靖司(福島県農総セ)、横田祐未(福島県農総セ)、石井詩歩(福島県農総セ)、落合将暉、鎌田えりか、石井孝典
  • 発表論文等:
    • 松尾ら「播種床形成器、施肥・播種装置」特許第6253018号(2017年12月8日)
    • 松尾ら (2020) 農作業研究、55:65-70
    • JA全農(2022)「タマネギの秋まき直播栽培マニュアル(令和3年度版)」