乳牛ふん尿の堆肥化での廃食用油添加と低通気条件を組み合わせたアンモニア発生低減

要約

乳牛ふん尿の堆肥化処理において、廃食用油をふん尿重量の3 %までの範囲で添加し、低通気条件(開始時の材料1 m3あたり21.4 L/分相当)で堆肥化することにより、処理過程でのアンモニア発生および窒素損失を低減することができる。

  • キーワード : 廃食用油、乳牛ふん尿、堆肥化処理、アンモニア発生低減、低通気条件
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畜産研究領域・肉用牛生産グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

堆肥化処理は、有機物素材の微生物による分解、安定化を促進し、作物肥料として利用される堆肥を製造する処理であり、我が国の畜産における家畜排せつ物の主要な処理方法である。しかしながら、家畜排せつ物は炭素に比べて窒素の含有割合が過剰(C/N比<20)であり、微生物による有機物分解の過程で余剰の窒素が悪臭の主成分であるアンモニア(NH3)として生成、揮散する。そこで、乳牛ふん尿の堆肥化処理において、炭素源として使用済みの食用油(廃食用油)を添加し、微生物の増殖とそれに伴う微生物菌体への窒素の資化を促進することにより、NH3の発生を低減する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 実際の強制通気式の堆肥化施設での通気量は堆肥化材料1 m3あたり50~300 L/分、一般的に≧100 L/分である。表1に示す堆肥化試験の設定のうち、高通気条件の開始時通気量(0.55 L/分)および低通気条件の通気量(0.3 L/分)は、処理開始時の堆肥化材料1 m3あたりそれぞれ39.2 L/分および21.4 L/分に相当し、高通気条件は堆肥化施設での下限値に近い値、低通気条件は下限値の半分以下の値である。
  • 堆肥化過程の堆肥化混合物の品温は、高通気条件、低通気条件のいずれにおいても、無添加対照区に比べて廃食油添加区が高めで推移する。一方、NH3発生濃度は、高通気条件では対照区と廃食用油添加区で大きな差はなく、低通気条件では、堆肥化期間中のNH3発生濃度は添加割合が高くなるに従って低くなる(図1)。
  • 堆肥化開始時点で、混合物のpHは廃食油添加割合の上昇に沿って低くなり、有機物含量の概略的な指標である強熱減量(VS, volatile solid)は逆に増加するが、これらはいずれの試験区でも終了時までに同程度となる。一方、堆肥化期間中の窒素損失は、高通気条件では添加割合の上昇に沿って増加するが、低通気条件では添加割合の上昇に沿って低減し、3 %添加区では対照区に比べて有意に低くなる(表2)。また、添加割合と窒素損失の間に、高通気条件では正の一次相関、低通気条件では負の一次相関がみられる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 乳牛ふん尿の堆肥化処理において、簡易なNH3発生低減方法として利用できる可能性がある。低通気条件で低減効果が現れることから、強制通気を伴わない自然通気堆積方式での堆肥化に有効と考えられる。
  • 実際の堆肥化施設により近い規模、条件での堆肥化処理でこの方法を用いてNH3発生低減を検討し、適用条件を明らかにする必要がある。

具体的データ

表1 堆肥化試験の設定,図1 堆肥化試験での堆肥化混合物の品温およびアンモニア発生濃度の推移,表2 堆肥化試験の混合物の変化,図2 廃食用油添加割合と堆肥化での窒素損失の相関

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(生産現場強化のための研究開発:生産システム革新のための研究開発における家畜ふん尿処理過程からの悪臭低減技術の高度化、戦略的プロジェクト研究推進事業:総合的な悪臭低減、臭気拡散防止技術の開発)
  • 研究期間 : 2015~2019年度
  • 研究担当者 : 黒田和孝、田中章浩、古橋賢一(東京大)、福重直輝
  • 発表論文等 : Kuroda K. et al. (2022) Anim. Biosci. 35:1100-1108