牛肉の脂質過酸化度と酸化臭強度の関係

要約

牛肉の脂質過酸化度は、腐敗や劣化した品質の指標である「酸化臭」の強度と相関が高い。このことから、牛肉の脂質過酸化度を測定することにより、酸化臭強度を推定する新たな手法を提供する。推定される酸化臭強度に基づき、脂質過酸化が関与する牛肉の保存性を評価する。

  • キーワード : 牛肉、品質評価、脂質過酸化度、酸化臭強度、保存性、分析型官能評価
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畜産研究領域・肉用牛生産グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

食肉の貯蔵中に生じる脂質過酸化は「酸化臭」を発生させ、腐敗や劣化した品質として評価される。従って、食肉の脂質過酸化を抑制し、酸化臭の発生を防ぎ、品質を保持することは、食肉流通においては非常に重要な課題であり、家畜の生産から部分肉・精肉に至るまでの多くのプロセスで技術開発がなされている。このように、食肉の保存性を評価する上では、脂質過酸化や酸化臭は不可欠な評価指標であるが、両者の関係について定量的に調べた報告は少ない。また、食肉の脂質過酸化の状態を確認するためには、主に「脂質過酸化度」を測定するが、酸化臭との関係が明らかにされておらず、保存性の高低を判断するための基準となる値は示されていない。そこで本研究では、牛肉の脂質過酸化度測定により、酸化臭強度を簡易に推定することで、脂質過酸化が関与する牛肉の保存性を評価する方法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 本手法は、貯蔵日数や貯蔵温度を変えて調製する18検体の牛ミンチ肉について、機器分析より得られる「脂質過酸化度」と分析型官能評価より得られる「酸化臭強度評点」の関係に基づいて確立した回帰式を用いる。牛肉の脂質過酸化度の指標として、従来法であるチオバルビツール酸反応性物質(TBARS値)または油脂TBA試験紙(柴田科学(株))を用いた簡便かつ実用的な測定法で試験紙の反応色である赤色値(a*値)を測定する。得られたTBARS値を図1に示す回帰式に、TBA試験紙a*値を図2に示す回帰式に当てはめ、酸化臭強度評点を算出する。
  • 牛肉のTBARS値と酸化臭強度評点との間には有意な相関が認められ、回帰式より、TBARS値として0.094 μmol/gになると酸化臭強度評点が4を超え「酸化臭がやや強い」と推定される(図1)。
  • 油脂TBA試験紙は油脂の過酸化生成物の測定用として販売されているものであるが、牛肉の脂質過酸化度についても簡便に測定することができる(今成ら 2014)。すなわち、油脂TBA試験紙に牛肉ホモジネートを浸潤させて加熱し、測色計で測定するだけで、TBARS値と相関の高いa*値を得ることができる(図3)。従って、油脂TBA試験紙のa*値と酸化臭強度評点の間においても有意な相関が認められる。回帰式より、TBA試験紙a*値として17.18になると酸化臭強度評点が4を超え「酸化臭がやや強い」と推定される(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 消費期限の目安である期限表示フレーム(中央畜産会 2006)では、保存温度4°Cにおける牛挽肉の可食期間は3日間とされており、この時期にTBARS値として0.094またはTBA試験紙a*値として17.18を示す場合は、保存性が低いと評価できる。
  • 本研究で示すTBARS値は、Kikukawaら(1992)の方法で測定した値である。TBARS値はいくつかの測定方法があり、測定方法によって得られる値が異なる場合がある。従って、図1に示す回帰式を用いる場合には、TBARS値をKikukawaら(1992)の方法で測定する必要がある。
  • 本研究では、分析型官能評価により「酸化臭の強弱」を評価した酸化臭強度評点を指標としており、「酸化臭に基づく許容性(食用に適するか否か)」の評価とは異なる。許容性に基づく保存性の評価を行う場合には、別途、酸化臭に対する嗜好型官能評価を行い、予測モデルを作成する必要がある。

具体的データ

図1 牛肉の酸化臭強度とTBARS値,図2 牛肉の酸化臭強度とTBA試験紙a*値,図3 牛肉のTBARS値とTBA試験紙a*値

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2014~2021年度
  • 研究担当者 : 今成麻衣、柴伸弥
  • 発表論文等 :
    • 今成、柴(2022)日畜会報、93:39-43
    • 今成ら(2014)日畜会報、85:549-552