加工・業務用ホウレンソウの物質生産モデルの構築と収量予測技術

要約

本研究で作成したモデルは、ホウレンソウの乾物生産量を群落の日射遮蔽量と日射利用効率の積としてとらえる物質生産モデルである。このモデルに基づいた収量予測プログラムを開発するとともに、WAGRI-APIの品目メニューとしてホウレンソウを追加済みである。

  • キーワード : 加工・業務用ホウレンソウ、収量予測、WAGRI-API
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・畑作物野菜栽培グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

加工・業務用ホウレンソウの生産においては、工場の安定した稼働のために定時定量出荷が求められる。しかし、露地で栽培される加工・業務用ホウレンソウは気象条件等によって生育量が変動しやすいため、生育状況に応じた収穫面積の調整や早めの出荷計画の修正が必要となる。そこで本研究では、気象条件からホウレンソウ群落の乾物生産量を推定するモデルを作成するとともに、それに基づいた収量予測に関する情報を提供するツールを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本研究で作成したモデルの概要を図1に示す。このモデルでは日射遮蔽量(DIR)[MJ/m2/day]と日射利用効率(RUE)[gDW/MJ]から1日あたりの乾物重の増加量(ΔTDW)[gDW/day/m2]を推定する。DIRは葉面積指数(LAI)[m2/m2]から推定される日射遮蔽率(fi-SR)と日射量の積として算出する。
  • 本研究で作成したモデルにおいては、説明変数として気温および日射量を用いているため、土壌水分等の説明変数に含まれない要因によって推定値が大きく外れる場合がある。その場合、LAIの実測値を用いて補正を行うことで推定精度が向上する(図2)。
  • 本研究で作成したモデルに基づいて推定したΔTDWの積算値と乾物率から収量を算出する収量予測プログラムを開発済みである。本プログラムは圃場の経緯度、播種日、目標収量、圃場面積を入力することで収穫予想日および予想収量を算出し、任意の期間ごとに積算したグラフを表示する(図3)。
  • 本研究で作成した物質生産モデルに基づき、農業データ連携基盤WAGRIに実装されている「NARO生育収量予測ツール」の品目メニューとしてホウレンソウ生育収量予測APIを拡充済みである。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で作成したプログラムで得られる情報は、仲買業者、大規模生産法人、自社農場をもつ加工業者の圃場管理者などが、出荷量を一定とするために収穫面積や収穫時期を調整する際の情報として活用できる。
  • 収量予測プログラムは、学術的利用や普及指導など、営利目的以外の目的に利用する場合に限り、農研機構ホームページからの利用申請により無償で利用できる。
  • WAGRI-APIは試験利用の登録から1年間は無料で利用することができる。ただし、別途WAGRIの登録料が必要となる。なお、1年後以降に本APIを継続利用する場合は別途有料となる。
  • 本研究で作成したモデルのパラメータの値は適切な施肥および病害対策を行った条件下で得られたものであり、同条件であれば概ね適用できるが、栽培条件や品種によって推定精度は変化する。そのため、品種や栽培条件に応じたパラメータの調整が必要な場合がある。

具体的データ

図1 物質生産モデルの計算フロー図,図2 LAI(左)および乾物重(右)の補正前後の推定値と実測値,図3 収量予測プログラムの概要

その他

  • 予算区分 : 運営費交付金
  • 研究期間 : 2017年~2021年
  • 研究担当者 : 鎌田えりか、石井孝典、小谷野仁、岡田邦彦、斎藤岳士、塩見岳博
  • 発表論文等 :
    • 鎌田ら(2021)園学研、20:423-432
    • 小谷野・鎌田(2021)職務作成プログラム「すくすくホウレンソウ」、機構-ZC1
    • 鎌田ら(2022)職務作成プログラム「WAGRIホウレンソウ生育収量予測API」、機構-P22