局所CO2施用技術によりイチゴの増収とCO2施用にかかる燃油使用量の削減を両立できる

要約

イチゴ促成栽培において、灯油燃焼式のCO2発生機に配管部材を組み合わせて群落内へ局所CO2施用することで、葉近傍のCO2濃度をハウス全体施用に比べて高く維持できる。その結果、CO2施用効率が改善し、全体施用に比べ22 %増収しつつ、CO2施用にかかる燃油使用量を27 %削減できる。

  • キーワード : イチゴ、局所環境制御、CO2施用、増収、燃油削減
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・施設野菜グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

国内のイチゴ生産では、ビニルハウス内のCO2濃度を積極的に高めて光合成を促進させることで増収や高品質化をねらうCO2施用技術が全国的に普及しており、不可欠な技術になっている。現行の施用法では、灯油等を燃やして発生させたCO2ガスをハウス空間全体に施用するのが一般的であるが、イチゴは植物体がコンパクトであるためハウス全体への施用には空間的な無駄があり、これを改善する技術の開発が求められている。
そこで、本研究ではイチゴの促成栽培において、灯油燃焼式のCO2発生機を用いた局所CO2施用技術が収量、燃油使用量およびCO2施用効率(燃油使用量あたりの増収量)に及ぼす影響を検証することでその有効性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、一般的に利用されている灯油燃焼式のCO2発生機にCO2濃縮ボックス、送風機、配風用塩ビ管および局所施用チューブを追加導入するかたちで構成される(図1)。
  • 天窓閉鎖下におけるイチゴ群落内のCO2濃度は、全体施用に比べて株元のチューブから施用する局所施用の方が早く上昇するが、施用開始から15分経過後には両施用区とも同等の濃度にまで上昇する(図2a)。また、天窓開放下では、局所施用の方が全体施用に比べて200 ppm程度高くなる(図2b)。このように、局所施用は群落内のCO2濃度の上昇を迅速化させるとともに、高濃度で維持することが可能である。
  • イチゴ群落内への局所CO2施用によって、一作あたりの可販果収量は全体施用に比べて22 %増加する(図3a)。また、CO2施用にかかる一作あたりの灯油使用量は、局所施用の方が全体施用に比べて27 %少なくなる(図3b)。
  • 局所CO2施用による増収・灯油使用量削減の結果、局所CO2施用のCO2施用効率は全体施用の約4倍に向上する(表1)。このように、全体施用から局所施用へのCO2施用方法の変更は、CO2施用効率の改善に対して有効である。

成果の活用面・留意点

  • イチゴ促成栽培におけるCO2施用技術の効率化のための基礎的知見となる。
  • 局所CO2施用システムには、CO2発生機(CG-254S1、ネポン(株))、POフィルム製のCO2濃縮ボックス(長さ0.6 m×幅0.6 m×高さ1.2 m)、接続用ステンレス管(呼径:230 mm×長さ:1.5 m)、送風機(EC-75S-R3A3、昭和電機(株))、塩ビ配管(呼径:50 mm、ベッド立ち上げ部の呼径25 mm)、局所施用チューブ(スミチューブ25果菜、住化農業資材(株))を用いた。本システムは、自家施工が可能である。
  • 農研機構九州沖縄農業研究センターの太陽光利用型植物工場(試験区画3.3 a)において、一季成り性品種「恋みのり」を2019年10月3日に定植し、2020年5月31日まで栽培試験を行った。栽培試験中は、換気温度26°C、暖房温度6°Cで管理した。
  • CO2施用の条件については、全体施用はハウス中央上部(地上1.9 m)、局所施用はイチゴ群落内(地上1 m)に設置したCO2センサ部の濃度が800 ppmになるように制御した。これら全体施用および局所施用は、2019年12月5日から2020年4月16日までの間、6-18時に行った。また、栽培試験期間中は、両施用区とも天窓開放による換気中においてもCO2施用を実施した。

具体的データ

図1 局所CO2施用システムの概要図,図2 全体施用および局所施用下における群落内のCO2濃度の経時変化,図3 各CO2施用区における累積の可販果収量(a)および一作あたりの灯油使用量(b),表1 各CO2施用区におけるCO2施用効率

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(スマート農業技術の開発・実証プロジェクト)
  • 研究期間 : 2019~2022年度
  • 研究担当者 : 日高功太、安武大輔(九大)、Zhang Yue(九大)、岡安崇史(九大)、壇和弘、北野雅治(高知大)、曽根一純
  • 発表論文等 :
    • Hidaka K. et al. (2022) Sci. Hortic. 301:111104
    • Zhang Y. et al. (2022) J. Clean. Prod. 371:133465
    • Zhang Y. et al. (2020) Comput. Electron. Agric. 179:105811