均一サイズの構造脂質微粒子の作製法

要約

高温マイクロチャネル乳化により、低融点脂質と高融点脂質から構成される均一サイズの構造脂質微小液滴を作製した後、冷却時の高融点脂質の結晶化により均一サイズの構造脂質微粒子の作製が可能となる。

  • キーワード:脂質微粒子、均一サイズ、構造脂質、高温乳化、マイクロチャネル乳化
  • 担当:食品研究部門・食品加工・素材研究領域・食品加工グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

栄養・機能性成分や薬剤成分の送達システムとして有用な分散系であるエマルションは、食品産業などで幅広く利用されている。三大栄養素の1つである脂質は、エマルションを構成する微小液滴の素材として多用されているが、エマルションは乳化剤等の存在により安定化するため、液滴同士の合一や分相による経時的な不安定化が起こり得る。高温条件で作製した高融点脂質微小液滴を徐冷して結晶化させることにより、隣接する粒子同士が融合する合一が起きない固体脂質微粒子を得ることが可能である(図1)。しかし、固体脂質微粒子の内部全体が結晶化しているため、内包した機能性成分が外部に排斥されやすい点が課題となっている。この課題に対する解決策として、常温で液体の脂質と固体の脂質から構成される構造脂質微小液滴を基材とした「構造脂質微粒子」(図1)の作製が考えられる。マイクロチャネル乳化は、意図するサイズの単分散エマルション(相対標準偏差:5%未満)を作製可能な先進技術であり、物性、呈味、および保存安定性などが高度に設計された乳化食品などの開発に有用な技術として期待されている。そこで、本研究では、高温マイクロチャネル乳化等のプロセスにより、均一サイズの構造脂質微粒子を作製可能な手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 液滴材料である分散相として、精製大豆油(低融点脂質)およびトリパルミチン(高融点脂質)を用いる。分散相中におけるトリパルミチンの割合は、25~100 wt%である。分散相材料を70°Cに加温してトリパルミチンを融解させた後、マイクロチャネル乳化に用いる。連続相として、親水性の食品用乳化剤を添加した水溶液を用いる。親水性表面を持つ平板溝形マイクロチャネルアレイ(シリコン製)を用いた高温マイクロチャネル乳化(70°C)により、均一サイズの脂質微小液滴(平均直径:15~19 μm、相対標準偏差:最小3 %台)が作製される(図2a,b)。
  • 均一サイズの脂質微小液滴を常温まで徐冷する間、高融点脂質の結晶化が生じて均一サイズの構造脂質微粒子が作製される(図2c)。脂質微小液滴中の高融点脂質の結晶化は、液滴表面付近で始まった後、0.1秒以内に完了する様子が観察されている。作製された構造脂質微粒子のアスペクト比(長軸/短軸)は、トリパルミチンの割合が閾値よりも多い場合に1.1未満になり(図3)、変形度が小さくなるとともに、微粒子の分散挙動も制御しやすくなる。
  • 大豆油とトリパルミチンの疎水性は同程度であるため、作製された構造脂質微粒子の内部において、結晶化したトリパルミチンと液状の大豆油はほぼ均一に分散していると考えられる。また、トリパルミチンの結晶化により、隣接する構造脂質微粒子の合一は生じない。

成果の活用面・留意点

  • 用途に応じて、構造脂質微粒子に含まれる高融点脂質の割合を幅広く制御できる。
  • 構造脂質微粒子は、不安定な脂溶性機能性成分の新たな微小キャリアとして有用な特性が示唆されている。

具体的データ

図1 脂質微小液滴を基材とした脂質微粒子の作製プロセス固体脂質微粒子の場合は、高融点脂質が結晶化する際に機能性成分が排斥される可能性がある。,図2 マイクロチャネル乳化(~70 °C)を用いた単分散脂質微小油滴(a,b)および単分散構造脂質微粒子(c)の作製例分散相の組成:トリパルミチン(50 wt%)、精製大豆油(50 wt%),図3 分散相中のトリパルミチンの割合が構造脂質微粒子のアスペクト比に及ぼす影響

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費21H00813)
  • 研究期間:2018~2021年度
  • 研究担当者:小林功、王瀚潇(筑波大)、等々力節子、植村邦彦、中嶋光敏(筑波大)、Marcos A. Neves(筑波大)
  • 発表論文等: