新規低分子オイル増粘剤
要約
澱粉由来の特殊な単糖である1,5-アンヒドログルシトール(AG)に脂肪酸が結合したGABAをエステル結合させた化合物が、様々なオイルを増粘できる。
- キーワード:1,5-アンヒドログルシトール(AG)、脂肪酸、GABA、増粘剤、ゲル化剤、生分解性素材
- 担当:食品研究部門・食品加工・素材研究領域・バイオ素材開発グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
日本国内の澱粉需要量は年々減少傾向にあり、澱粉産業では新たな澱粉用途の開発が望まれている。一方、化粧品産業においては、オイルのゲル化増粘剤がわずか1種類しかなく、新たなゲル化増粘剤の開発が望まれている。そこで、澱粉由来の単糖である1,5-アンヒドログルシトール(AG)を化学変換することにより新規なオイルゲル化増粘剤を作り出す。既にわずか1%で様々なオイルをゲル化可能なゲル化剤としてAGにパルミチン酸を結合したC16AGを開発しているが、それは増粘効果が弱かった。そこで、本研究では増粘効果が強い化合物の開発を行う。
成果の内容・特徴
- 増粘効果を得るためには分子間水素結合が必要であると考え、アミド結合を有する化合物をデザインする(図1-2)。様々な化合物を合成し比較検討を行った結果、脂肪酸が結合したGABA(脂肪酸GABA)をAGにエステル結合で結合させた化合物が非常に強く様々なオイルを増粘できる。また、脂肪酸GABA自体もオイルをゲル化増粘できる。さらに脂肪酸GABAを一般的な単糖であるグルコースに導入した化合物も、効果は低いながらもゲル化増粘できる (図3)。それぞれのゲルの濁度と硬度を測定した結果、化合物5-8が良いゲル化増粘剤である(図4)。
- 合成したそれぞれのキセロゲル(オイルを抜いたゲル骨格)を電子顕微鏡で観察した結果、それぞれの化合物に特徴的な構造をとっている。特に脂肪酸GABAがAGに結合した化合物5-8は、直径50ナノメートル以下の極細いファイバーを形成することにより、透明度および硬度が高くなっていることが分かる。既存のゲル化剤としてAGにパルミチン酸を結合したC16AGはファイバー径が150ナノメートルほどであり分子間水素結合もないため増粘効果が乏しいが、これらの化合物5-8はこの極細いファイバーと分子間水素結合により強力な増粘効果が得られる(図5)。
成果の活用面・留意点
- 本化合物群は物質特許を申請した新規化合物群である。使用する際には、農研機構の許諾が必要である。
- 合成法を最適化し大量合成法を確立する必要がある。
- 安全性に関するエビデンスがないため、マウスによる急性毒性試験等の実施が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、文部科学省(科研費21K05418)、科学技術振興機構(研究成果最適展開支援プログラム)
- 研究期間:2020~2021年度
- 研究担当者:今場司朗
- 発表論文等:
- Komba S. et al. (2021) ACS Omega 6(32):20912-20923
- 今場司朗、特許出願済 (2021,01,20)