ヒト胃消化シミュレーターを利用した各種パンの消化挙動の観察・解析

要約

胃壁で発生・進行するぜん動運動が定量的に模擬されたヒト胃消化シミュレーターの利用により、異なる組織構造を有するパンが胃内消化中の微細化および含有栄養成分の挙動に及ぼす影響を直接観察できる。パンの種類は、胃内消化挙動に影響する。

  • キーワード : 胃消化シミュレーター、パン、食塊、ぜん動運動、構造
  • 担当 : 食品研究部門・食品加工・素材研究領域・食品加工グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

パンは、米飯などと並び、国内で多く消費されている主食の一つである。また、国内外において多種多様なパンが喫食されている。パンの原材料および構造は、食感に加えて胃内消化性にも影響すると考えられる。しかし、パンを用いた既往研究では、化学的消化を模擬した生体外評価法を用いているため、ヒトの胃における物理的な消化挙動に関する知見が不足している。本研究では、定量的なぜん動運動の駆動および消化挙動の可視化が可能なヒト胃消化シミュレーター(GDS、Gastric Digestion Simulator)を用い、パンの種類が胃内消化性に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 胃内消化試験に用いる人工食塊は、一口大にカットしたパン(食パン、ベーグル、ドイツパン、フランスパン、クロワッサン)をカッターミキサーの使用により切削して得られる5mm程度のパン粒子60gと人工唾液30mLを混合することにより作製される。
  • GDS容器内における人工食塊の胃内消化挙動は、パンの種類によって大いに影響を受ける(図1)。食パンの場合では、人工胃液が内相(クラム)の空隙中に速やかに浸透し、粒子の微細化が進行する。ベーグルおよびドイツパンの場合では、人工胃液が人工食塊中に緩やかに浸透した後、粒子の微細化が急激に進行する。消化試験の開始後に浮遊したベーグル粒子の大半は、その後、微細化して沈降する。フランスパンの場合では、人工食塊が粗大粒子と微細粒子から構成され、人工胃液の浸透による顕著な膨潤が認められる。クロワッサンの場合では、ぜん動運動により薄層が剥離して微細化が進行し、容器内の上部に油脂層が形成される。
  • 胃内消化試験後の消化物の重量分布(図2)において、胃の出口である幽門を通過する粒子(2 mm程度以下)より大きい粒子の割合は、パンの組織構造および材料組成による影響を受ける。特に、粗な構造を有するフランスパンは、人工胃液の浸透による粒子の膨潤により微細化が抑制され、幽門からの排出が遅延して消化が緩慢になる可能性を示唆している。
  • 蛍光染色したパンの微細構造(図3)は胃内消化により変化し、網目構造を形成する気泡壁の分解・破壊が観察される。

成果の活用面・留意点

  • 定量的なぜん動運動を備えるGDSの利用により、多様なパンにおける微細化などの変化および含有栄養成分の放出・拡散挙動を観察可能である。
  • パン試料を含む胃消化物を用いた小腸内消化試験については未検討であり、今後の知見の集積が必要である。
  • 本成果は、パンの胃内消化性の系統的な理解および胃内消化性などが制御されたパンの研究開発に有用と考えられる。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2022~2024年度
  • 研究担当者 : 小林功、芝崎本実(十文字学園女子大)、神津博幸、梅田拓洋、前田竜郎(帝京平成大)、野口律奈(帝京平成大)、田中理祥(東京大)、荒木徹也(東京大)、杉山健二郎(工学院大)
  • 発表論文等 : Shibasaki M. et al. (2024) Foods 13:3244