要約
定量PCR技術を活用してサルモネラ増殖挙動データを取得することで、増殖速度に関する予測モデルが構築できる。食品の加工工程での二次汚染発生の想定シナリオにおいて、作成された予測モデルの精度は良好であり、食品加工・流通時でのサルモネラ増殖リスク推定に応用できる。
- キーワード : サルモネラ、定量PCR、増殖予測、予測モデル
- 担当 : 食品研究部門・食品流通・安全研究領域・食品安全・信頼グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
加工食品には、食中毒菌リスクの増減に関わる様々な工程がある。HACCPによる自主的な衛生管理を行うには、各加工工程で発生しうるリスク増減レベルを明確化し、安全の妥当性を確認する必要がある。しかしながら食品中における食中毒菌の増殖特性データを実験的に取得するには、従来の培養法では多大な労力と時間・技術を必要する。これを解決するため、当研究室では定量PCR技術を活用したサルモネラの増殖挙動データ取得の簡易化について試験研究を進めてきており、食材中での増殖挙動データを簡易取得できる。また、そのデータから保存温度と増殖速度との関係性を示すサルモネラの増殖予測モデルを構築できる。
そこで、本研究では鶏肉の加工工程中での取り扱いにおけるサルモネラの汚染拡大のモデルケースを想定して、開発技術によって得たサルモネラの増殖モデルによる予測結果と従来法との結果を比較することにより、その精度を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 供試検体として、鶏肉ドリップ、鶏スライス肉、鶏ひき肉、加熱鶏肉パティに一定量のサルモネラ(トリ由来分離株、異なる血清型4株を混合)を接種して様々な温度で保存、一定時間おきに検体を取得し、核酸抽出ならびに定量PCRに供することでサルモネラの増殖曲線が得られる。増殖曲線の解析結果からサルモネラの増殖速度と保存温度との関係を示す増殖予測モデルを得ることができる(表1)。
- 表1の供試検体中で得たサルモネラの増殖に関する各増殖予測モデルはいずれも鶏肉ドリップにて得たモデルと近い値で示される。鶏肉ドリップでの取得データは今回使用した供試検体に対して共通して活用できる。
- 加工工程での食品の取扱いによって起こりうる二次汚染を想定したシナリオを作成し(図1)、表1の鶏肉ドリップで得た増殖予測モデルを用いてサルモネラの増殖を各シナリオで予測した結果と、実際に培養法及び定量PCR法で実測した結果を比較すると両者の値はほぼ等しい(図2)。
- 増殖予測値の誤差範囲を求めた結果、その値はいずれも+0.5~-1.0 log以内に収まり、本増殖予測モデルは十分な予測精度を有する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本法では定量PCRを採用しているため、雑菌存在下でも食中毒菌の増殖曲線を得ることが可能である。また、本法は、労力・時間・技術的負担を軽減でき、従来の培養法と比べても処理能力が高い。
- 今回の供試検体以外の食品にも活用できる可能性は高いと考えられるが、あらかじめ予備試験等により、定量性の精度を確認する必要がある。
- 上記試験のように、食品の加工形態毎に増殖予測モデルを算出して比較することにより、複数の食品形態について同一の予測モデルで増殖予測が行える可能性がある。一方で、増殖予測モデルが大きく変動する場合には、その食品形態に応じた増殖予測モデルを用いる必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2024年度
- 研究担当者 : 川﨑晋、Fia Noviyanti
- 発表論文等 : Noviyanti F. et al. (2024) J. Food Sci. 89:2410-2422