日本の2000年から2015年の窒素収支

要約

日本の一人当たり廃棄窒素は世界平均の約2倍である。窒素汚染をもたらす化合物(反応性窒素)の排出は廃棄窒素の1/3に抑制され、2000年代において減少している。本成果は、肥料や工業原料としての窒素利用の便益を保ちつつ、窒素汚染を防ぐ技術の開発や政策の立案に有用である。

  • キーワード:窒素問題、窒素収支、廃棄窒素、反応性窒素、窒素汚染
  • 担当:農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・農業環境情報グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

肥料や工業原料としての窒素利用の便益は、環境への反応性窒素の排出を伴い、窒素汚染という脅威をもたらす。このトレードオフを窒素問題と呼ぶ。持続可能な窒素利用に向けた課題の抽出には、国レベルの窒素の流れとその収支の算定が必要である。
そこで、本研究では、日本全体を対象とした窒素の流れと収支を求めることを目的とする物質収支モデルを構築し、一つ一つの窒素の流れを算定して窒素収支を求めて集計し、日本の窒素汚染とその背景にある窒素フローの全容を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 窒素問題(図1)の解決に資する窒素収支の情報を得るため、日本全体の窒素の流れを集計するモデルを構築する。このモデルは14のプール(エネルギー、製造産業、作物生産、家畜生産、草地、水産業、消費者、廃棄物、下水、都市緑地、大気、森林、陸水、沿岸域)から構成され、各プールは必要に応じて小区分のサブプールを有する(図2)。窒素の流れの算定には、日本国温室効果ガスインベントリ報告書、国際・国内機関の各種統計、および関連文献の情報を活用する。
  • 日本の人間セクター(エネルギー、製造産業、作物生産、家畜生産、草地、水産業、消費者、廃棄物、下水、都市緑地)への新規流入窒素は、年間600万トン窒素程度であり、2000年代後半以降は輸入による国外からの流入が8割前後を占める(図3a)。
  • 流入窒素から人間社会に蓄積されたものを除いたものが廃棄窒素に該当する(図3b折れ線)。廃棄窒素は、年間530~610万トン窒素でほぼ横ばいである。廃棄窒素に対して反応性窒素の排出は1/3程度に抑えられており、排ガス処理、排水処理、農地などの脱窒の効果とみられる。
  • 環境への反応性窒素の排出は、年間230万トン窒素から190万トン窒素へと減少している(図4)。特に、エネルギー利用(図4a)に伴う大気への窒素酸化物の排出の減少(図4b)が著しい。

成果の活用面・留意点

  • 窒素収支は、我々の窒素利用とそれがもたらす窒素汚染の可能性を量的にあらわす。例えば、食料の生産から消費かけての廃棄窒素の発生および環境への反応性窒素の排出の削減に貢献する対策技術および関連政策の効果の評価に貢献する。
  • みどりの食料システム戦略による化学肥料の低減にともなう廃棄窒素を削減や、有機農業の拡大による廃棄窒素および反応性窒素の環境への排出を削減の評価に活用できる。
  • 今後は、窒素フローの算定手法の精緻化とデータの充実に一層取り組むとともに、日本国温室効果ガスインベントリ報告書と同様に毎年の窒素収支の算定報告が可能となる仕組みへと発展を目指す。

具体的データ

図1 窒素問題は窒素利用の便益と窒素汚染の脅威のトレードオフである,図2 日本の窒素収支の算定に用いる14のプールとその中のサブプール,図3 日本の人間セクターにおける(a)新規流入窒素および(b)流入窒素の行方,図4 日本における環境への反応性窒素の排出(a)発生源別および(b)排出先別

その他

  • 予算区分:交付金、地球研(実践プロジェクト予備研究、14200156)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:林健太郎、種田あずさ、柴田英昭(北海道大)、仁科一哉(国環研)、伊藤昭彦(国環研)、片桐究(東北大)、新藤純子(山梨大名誉教授)、Wilfried Winiwarter(IIASA、オーストリア)
  • 発表論文等: