豚熱ウイルス野外株とワクチン株を識別可能な遺伝子検査法

要約

本検査法は、現在国内で流行する豚熱ウイルス野外株と養豚農場および野生イノシシでの防疫に用いられているワクチン株を簡易、迅速に識別するリアルタイムPCR法である。都道府県において、野外株の正確な検出や簡便なワクチン接種状況の把握などが可能となる。

  • キーワード : 豚熱、ワクチン、識別検査、リアルタイムPCR法
  • 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

現在、豚熱ウイルス(CSFV)の清浄化のため、養豚農場でのワクチン接種とイノシシを対象とした野外での経口ワクチンの散布が行われている。そのため、ワクチン使用地域の豚やイノシシが都道府県の検査施設において豚熱の遺伝子検査で陽性となった場合には、動物衛生研究部門に材料を送付しシークエンス検査によって病原性の強い野外株かワクチン株かを識別するためにウイルス遺伝子の塩基配列を決定している。本検査は、検査材料の送付に加え、全体として手技が煩雑で長時間を要することに加え、高額の解析機器を必要とする。
そこで、本研究では、都道府県の検査機関等においてCSFV野外株とワクチン株を簡便かつ迅速に識別できるリアルタイムPCR検査法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムでは、遺伝子型が異なる国内流行株(遺伝子型2)とワクチン株(遺伝子型1)の遺伝子配列の違いに基づいて、遺伝子型1のCSFVのみを特異的に検出する検査と、全ての遺伝子型のCSFVを幅広く検出する検査を同時に行う。そのため、ワクチン株は遺伝子型1に特異的な増幅反応とCSFV全般を検出する増幅反応で共に陽性となる一方、野外株はCSFV全般を検出する増幅反応でのみ陽性となる(図1)。
  • 本検査法の鑑別結果は、従来のシークエンス検査による塩基配列の解析結果と一致する。
  • 本システムでは、概ね2時間以内に完了する1回のリアルタイムPCR検査で、現在国内で流行するCSFV野外株とワクチン株を識別することが可能で、現在通報から1~2日を要している塩基配列の決定に比べて、判定までに要する時間を大幅に短縮できる(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 都道府県家畜保健衛生所および認定民間検査機関、国立環境研究所等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国
  • その他 : 遺伝子型1のCSFVを特異的に増幅する検査では、ワクチン株に加えて、現在国内には存在しない海外の遺伝子型1の野外株も検出するため、識別検査の適用条件を順守するとともに結果の解釈には十分に注意を払うこと。

具体的データ

図1 豚熱ウイルス野外株・ワクチン株の鑑別用リアルタイムPCR法の概略,図2 従来法と新規法の検査工程および検査時間の比較

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的監視・診断体制整備推進委託事業:家畜伝染病診断体制強化・整備))
  • 研究期間 : 2019~2021年度
  • 研究担当者 : 西達也、深井克彦、國保健浩
  • 発表論文等 : 農林水産省(2022)「野生イノシシの豚熱検査における野外株とワクチン株の鑑別について」(令和4年3月31日通知、同年9月26日改定)