豚、めん羊および山羊を対象としたブルセラ症抗体検査マニュアル

要約

死流産を主徴とするブルセラ症の抗体検査に関する基本的な手技や検査結果の解釈を示すマニュアルである。本マニュアルは、全国の家畜保健衛生所等の検査施設においてブルセラ症の抗体検査の実施や診断に活用できるとともに、検査者間の手技の平準化や検査精度の向上に役立つ。

  • キーワード : ブルセラ症、抗体検査、試験管凝集反応試験、補体結合反応試験、マニュアル
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

ブルセラ症は死流産を主徴とする細菌性の家畜感染症であり、家畜伝染病予防法における「家畜伝染病(対象家畜種: 牛、豚、めん羊および山羊)」に指定されている。わが国では、本症に対する主たる防疫手段として抗体検査による陽性家畜の摘発・淘汰が実施されてきたが、牛以外の家畜においては、2022年4月以降、検査試薬の販売が中止されたブルセラ急速凝集反応試験に代えて試験管凝集反応試験および補体結合反応試験による抗体検査が行われている。しかし、現在、本症が清浄化されていると考えられる日本では両検査の実施例が少なく、それらの検査精度が十分に把握されていないことに加えて、不慣れな検査を実施することとなる家畜保健衛生所等の検査施設では、十分な精度を維持しながら再現性の高い検査結果を得るための検査手技や判定基準にかかる技術情報の普及が強く望まれている。
そこで本件では、いかなる検査施設においても再現性良く両検査を実施できる標準化した検査マニュアルを作成するとともに、豚由来の検体を用いて両検査の精度を評価する。

成果の内容・特徴

  • 主に種雄豚の種畜検査において実施されるブルセラ症の抗体検査(試験管凝集反応試験および補体結合反応試験)を本マニュアル(図1)に従って実施することにより、検査者間で検査手技の平準化が図れる。
  • 本マニュアル(図1)には、試験管凝集反応試験および補体結合反応試験について、事前準備から両検査に使用する器具・設備、試薬の調製方法、試験の実施方法、結果の判定方法までの手順が示されている。作業の様子を模式的に紹介するとともに、写真を用いて注意を要する凝集や赤血球の溶血の具体的な判定基準を示し、正しい判定結果が得られるよう工夫している(図2)。
  • ブルセラ急速凝集反応試験によりブルセラ症陰性と判定された種雄豚の血清を用いて、本マニュアルに従って両検査を実施したところ、試験管凝集反応試験および補体結合反応試験の特異度はそれぞれ98.2%および94.6%という結果が得られている(表1)。
  • 近年、国内では本症の発生がないため、両検査の検査感度は十分に明らかなっていない。両検査の検査感度については、今後、陽性検体を用いた検証を要する。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 都道府県家畜保健衛生所等の病性鑑定担当者、国の検査機関の検査担当職員
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 国内全都道府県
  • その他 : 本検査マニュアルは農研機構動物衛生研究部門のホームページからダウンロードできる。

具体的データ

図1 農研機構動物衛生研究部門ホームページへの掲載内容,図2 掲載内容の一例,表1 ブルセラ急速凝集反応試験により陰性と判定された種雄豚の血清を用いた抗体検査結果

その他