効果的なヨーネ病診断のための2種類の新しい遺伝子検査法

要約

2種類の新しいヨーネ病遺伝子検査法を開発した。予備検査としてのスクリーニング検査及び診断のための確定検査にそれぞれ導入することにより、前者は現行よりも早期に排菌牛を摘発でき、後者は特異性が向上すると同時に検査結果が偽陰性でないことを判別し、精度の高い診断が可能となる。

  • キーワード : ヨーネ病、スクリーニング検査、確定検査、遺伝子検査、プローブ法
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

牛ヨーネ病は、ヨーネ菌の感染による慢性消化器感染症であり、数年にわたる潜伏期間の後に持続性の下痢、削痩、泌乳量の低下等の臨床症状を示す。家畜伝染病に指定され、摘発淘汰による清浄化対策が進められているが、現行のヨーネ病検査(表)は、感染牛のスクリーニングに抗体検査を用いているため、抗体陰性の排菌牛が摘発されず感染を広げ対策が長期化することが問題となっている。さらに、抗体陽性牛は定量遺伝子検査(現行のqPCR検査)により確定検査を行うが、これまでに、非特異的な増幅が陽性と判定され、電気泳動により陰性が確認された事例も報告されており、改良が求められている。そこで、本研究では、抗体検査よりも早期に感染・排菌牛を検出するスクリーニング遺伝子検査法、および現行のqPCR検査よりも特異性が高く正確な定量結果が得られる確定遺伝子検査法を開発し、ヨーネ病検査への活用を目指す(表)。

成果の内容・特徴

  • ヨーネ病スクリーニング遺伝子検査法は、抗体検査では摘発できない抗体陰性排菌牛を検出でき、感染ステージのより早い段階で感染・排菌牛を摘発することが可能となるため、農場内での感染拡大防止ならびに短期間での本病清浄化に寄与すると考えられる。さらに、10頭までの糞便をまとめて検査することも可能であり、個体ごとの検査と同等な感度で効率良く牛群検査を行うことができる(表)。
  • 現行のqPCR検査を改良した確定遺伝子検査法は、ヨーネ菌遺伝子(IS900)に特異的な蛍光標識プローブを用いて増幅産物を検出する(プローブ法)ことにより、特異性が向上し、ヨーネ菌遺伝子を正確に定量することが可能である(表)。さらに、糞便中に含まれる様々なPCR阻害物質の影響で反応が阻害されることがあるため、内部標準遺伝子の増幅をヨーネ菌遺伝子とは異なるプローブで検出することによって、検査結果が偽陰性でないことを確認できる(表)。プローブ法によるヨーネ病確定遺伝子検査法は、現行のqPCR検査よりも精度の高い確定検査が可能となる。
  • 2種類の新しい遺伝子検査法は、民間製薬会社と共同で開発・実用化をすすめ、動物用体外診断用医薬品として承認されている(図)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 都道府県家畜保健衛生所、動物検疫所等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国
  • その他 : 2種類の新規ヨーネ病遺伝子検査法は、民間製薬会社と共同で製品化をすすめ、動物用体外診断用医薬品として承認されている。

具体的データ

表 現行のヨーネ病検査法の課題と新技術による改善点,図 ヨーネ病遺伝子検査キット試作品
(左:スクリーニング遺伝子検査、右:確定遺伝子検査)

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究委託事業:ヨーネ病の感度・特異度の高い遺伝子検査手法の確立)、その他外部資金(地域戦略プロジェクト27補正、経営体プロジェクト28補正)
  • 研究期間 : 2016~2022年度
  • 研究担当者 : 川治聡子、永田礼子、森康行、峯岸恭孝(ニッポンジーン)、西川知香(ニッポンジーン)、猿山由美(栃木県県央家保)、今橋大輔(兵庫県姫路家保)、三田晶子(家畜改良センター)、岸塚慎吾(家畜改良センター)、齊藤政宏(家畜改良センター)、山口道利(龍谷大)
  • 発表論文等 :
    • Kawaji S. et al. (2020) J. Clin. Microbiol. 58(12):e01761-20
    • 森ら「ヨーネ菌検出用プライマー及びそれを用いたヨーネ菌の検出方法」特許第6156824号(2017年6月16日)
    • 高橋(川治)ら「ヨーネ菌検出用プローブ、それを用いたヨーネ菌の検出方法並びにヨーネ菌検出用キット」特許第6671620号(2020年3月6日)
    • 農研機構(2018)「ヨーネ病スクリーニング遺伝子検査法(2018年2月1日版)」(2018年2月1日)