要約
マガモは、過去に国内で分離されたH5 亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルス株に容易に感染するが、その症状は軽微なものから死亡までウイルス株で異なる。ウイルス株にかかわらず、感染したマガモはウイルスを一定期間排出し、他のマガモや環境を汚染させる。
- キーワード : 高病原性鳥インフルエンザウイルス、H5亜型、マガモ、野鳥
- 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・ウイルスグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
2004年以降、日本において高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が断続的に発生しているが、その原因ウイルスであるH5亜型HPAIウイルス(HPAIV)の日本への侵入には大陸から越冬のために渡ってくる野鳥の関与が指摘されている。マガモは例年多くの羽数が日本に渡ってきているが、これまで発生時期に分離されたウイルスについて病原性を評価した報告はない。本研究は、日本において過去に発生を起こしたウイルス株を用いてマガモの感染実験を行い、HPAIVに対するマガモの感受性を評価するとともに、ウイルスの鳥間や環境中への伝播性を評価することを目的としている。
成果の内容・特徴
- 過去に国内で分離されたウイルス7株(表)をマガモにそれぞれ等量(106 EID50)経鼻接種した場合、それぞれのウイルス株は100 %の確率で感染し(抗体陽転またはウイルス排出あり)、宮崎株(2007)及び兵庫株を除いた全てのウイルス株は、マガモを死亡させない(宮崎株(2007):1/8羽死亡、兵庫株:3/8羽死亡)。
- 感染したマガモは、ウイルス株によって、神経や角膜混濁などの症状の有無が異なる。
- 感染したマガモは、総排泄腔よりも気管からのウイルス排出量が多く、ウイルス株にかかわらず一定期間排出し続ける(図)。特に兵庫株に感染したマガモは、他のウイルス株に感染したマガモよりも多くのウイルスを排出する(図)。
- マガモに対する病原性が異なる宮崎株(2011)及び兵庫株を感染させた場合、病原性の違いにかかわらず、全身でウイルスが増殖する。
- 感染したマガモは、同環境の他のマガモや水を汚染させる。
成果の活用面・留意点
- マガモは、日本において過去に発生を起こしたH5亜型のHPAIVに容易に感染し、ウイルスの排出により環境を汚染させることから、過去の発生時期において、環境中へのウイルス拡散に関与していた可能性が推測される。HPAI発生に対する注意喚起を行ううえで、越冬のためにマガモが日本に渡ってくる時期や、日本におけるその動向に注視することが重要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
- 研究期間 : 2018~2020年度
- 研究担当者 : 谷川太一朗、藤井晃太郎(富山県東部家保)、杉江勇二(滋賀県家保)、常國良太、中山ももこ、小林創太
- 発表論文等 : Tanikawa T. et al. (2022) Vet. Microbiol. 272: 109496