薬剤T-1105の豚での口蹄疫に対する抗ウイルス効果

要約

抗ウイルス剤T-1105は豚に経口投与すると速やかに全身に行き渡り、口蹄疫ウイルスの複製を阻害する。口蹄疫発生時、感染の拡大を阻止する目的で豚に本薬剤を投与することにより、ウイルスの増幅動物である豚での感染拡大を抑えることを通じて、防疫措置の遂行に寄与する。

  • キーワード : 口蹄疫ウイルス、豚、まん延防止策、抗ウイルス剤
  • 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

口蹄疫ウイルス(FMDV)は偶蹄類動物に強い伝染力を示す。本ウイルスに対して迅速な効果を示す抗ウイルス剤は、口蹄疫発生時のまん延防止に有用である。これまでの研究でピラジンカルボキサミド誘導体T-1105は、豚への経口投与により、口蹄疫の臨床症状を抑えウイルス排泄を著しく低減する効果があることが分かっている。本研究では、薬剤T-1105のFMDVに対する生体内での薬効機序および異なる7つの血清型のFMDVに対する細胞増殖阻害効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本薬剤は飼料に混合して安全に豚に投与することができる(図1)。本薬剤200 mg/kgを経口投与した後、1時間以内に血液中ならびにFMDVの感染部位である咽頭およびその周辺のリンパ組織および唾液腺に薬剤が行き渡る(図2)。
  • 本薬剤200 mg/kgを経口投与した豚にFMDVを接種して6、12、24、48時間後のウイルスの体内分布を調べたところ、いずれの部位からもウイルスは検出されない。接種後10日間まで経過を観察しても臨床症状やウイルス排泄は認められない(図3)。
  • 本薬剤にはFMDV感染前期に感染細胞内でのウイルスの複製過程を強く阻害する効果が認められ、いずれの血清型のFMDVに対しても有効である。

成果の活用面・留意点

  • 本薬剤は投与後速やかに効果が得られ、抗ウイルス剤として優れている。豚における口蹄疫の発生に際してまん延防止に効果的な資材として応用することができる。

具体的データ

図1 豚に対する薬剤T-1105の投与方法,図2 薬剤T-1105の経口投与による口蹄疫ウイルス(FMDV)に対する抗ウイルス効果,図3 豚を用いた薬剤T-1105の口蹄疫ウイルス感染に対する抗ウイルス効果の評価試験

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
  • 研究期間 : 2018~2021年度
  • 研究担当者 : 西達也、深井克彦、舛甚賢太郎、川口理恵、生澤充隆、山田学、森岡一樹、坂本研一(宮崎大学)、米納孝(富士フイルム)、中嶋希(富士フイルム)、杉原裕美(富士フイルム)、黒崎千栄(富士フイルム)、古田要介(富士フイルム)
  • 発表論文等 : Nishi T. et al. (2022) Antiviral Res. 208:105425 doi: 10.1016/j.antiviral.2022.105425.