不死化豚腎マクロファージはアフリカ豚熱ウイルスの分離に有用である

要約

農研機構で開発した不死化豚腎マクロファージ(IPKM)は、アフリカ豚熱ウイルスを含む検体から増殖力のあるウイルスを、その毒力に影響を与えることなく、効率的かつ簡便に分離・増殖することが可能であり、アフリカ豚熱の診断および研究に有用なツールである。

  • キーワード : アフリカ豚熱、不死化豚腎マクロファージ、IPKM、ウイルス分離、病原性
  • 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

アフリカ豚熱(ASF)は感染した豚やイノシシを死に至らしめる海外悪性伝染病である。2007年以降、ヨーロッパにおいて発生が継続していたが、2019年にアジア地域へ拡大し、現在は台湾や我が国を除く、東アジア、東南アジア地域などで広く流行している。ASFの病原体であるASFウイルス(ASFV)の分離・増殖には豚の肺から採取する初代マクロファージ(PAM)が使用されているものの、PAMは培養条件下で増殖せず、そのため、毎調整時に豚を犠牲にする必要があること、不測の病原体の混入が懸念されることなどの短所があるため、PAMに代わり、ASFVに高感受性で長期にわたり維持・継代が可能な株化細胞が求められている。我々は豚の腎臓から樹立された株化細胞(不死化豚腎マクロファージ:IPKM)が高いASFV感受性を有することを明らかにしてきた(舛甚ら、2021年)。そこで、本研究では、このIPKMを用いてASFVに汚染された豚肉製品からのASFV分離を試み、分離ウイルスの病原性を確認することによりASF診断における当該細胞株の有用性を検証する。

成果の内容・特徴

  • IPKMを用いてASFVで汚染された豚肉製品から調整した乳剤をASFVの分離試験に供すると、接種材料の細胞障害性が高い場合(1-21)を除いてPAMと同等の分離成功率を示す(表1)。
  • IPKMを用いて豚肉製品から分離したASFVは、豚に高熱およびウイルス血症を引き起こし、短期間で死に至らしめ、強毒株であることがわかる(図1)。IPKMにおける分離試験およびそれに付随する継代過程を経てもウイルスの遺伝的および生物学的特性が維持される。
  • IPKMはASFの診断および研究に有用である。

成果の活用面・留意点

  • 株化細胞であるIPKMを用いることでASFVの効率的な分離が可能となる。
  • IPKMを用いて分離したASFVが分離前のウイルス性状を維持していることから、IPKMは分離、継代、増殖を伴うウイルス研究に適している。
  • IPKMはPAMよりも細胞傷害作用を受けやすいと考えられることから、診断や研究に用いる際には、供試する検体の細胞毒性に注意を払う必要がある。

具体的データ

表1 アフリカ豚熱ウイルスに汚染された豚肉製品の乳剤(2 %および0.2 %濃度)を接種した豚肺胞マクロファージ(PAM)および不死化豚腎マクロファージ(IPKM)におけるウイルス分離試験結果,図1 IPKMで分離したアフリカ豚熱ウイルスを接種した豚の体温および血中ウイルス量の推移

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:官民・国際連携によるASFワクチン開発の加速化)
  • 研究期間 : 2019~2022年度
  • 研究担当者 : 亀山健一郎、北村知也、岡寺康太、生澤充隆、舛甚賢太郎、國保健浩
  • 発表論文等 : Kameyama K., Kitamura T. et al. (2022) Viruses 14(8):1794