高病原性鳥インフルエンザウイルスの肉用鶏農場への侵入から摘発までの日数を推定する

要約

高病原性鳥インフルエンザ発生時において、追跡調査・防疫対応に有用な情報である農場へのウイルス侵入から摘発までの期間を肉用鶏農場での事例について感染症数理モデルを用いて推定する。

  • キーワード : 高病原性鳥インフルエンザ、感染症数理モデル、肉用鶏農場、侵入時期推定
  • 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・疫学・昆虫媒介感染症グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

家畜感染症の発生時に農場への病原体の侵入時期を的確に推定、把握することは、疫学関連農場の追跡調査や、その後の防疫対応を実施する上で有益である。本研究では、2020-21年冬季に国内の肉用鶏農場で発生した高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)発生事例について、感染症数理モデルを用いて各発生農場におけるウイルスの侵入時期を推定する。

成果の内容・特徴

  • 鶏の感染状態を未感染(Susceptible)、潜伏感染(Exposed)、発症・ウイルス排泄(Infectious)、死亡(Removed)に分け、鶏舎内での感染の広がりを、感染症数理モデル(SEIRモデル)を用いてモデル化する(図1)。数理モデルを用いて日ごとの死亡羽数を推定し、これと農場における実際の死亡羽数とを比較することにより、農場内における鶏から鶏へのウイルスの感染力の強さ(伝播率)とウイルスの侵入から摘発までの日数を推定する。さらに、推定した伝播率を用いて、農場内におけるHPAIの基本再生産数(1羽の感染鶏が感染期間を通じて何羽の未感染鶏を感染させるかを示す値)を求める。
  • 肉用鶏農場12戸について、ウイルスの侵入から摘発までに要した日数を推定すると、中央値が14.1日(最小値8.6日、最大値24.1日)となり、ウイルスの侵入から死亡羽数の増加として察知されるまでに、1~3週間程度を要すると推察される(表1)。
  • 肉用鶏農場におけるウイルスの伝播率の推定値は、中央値が1.4(最小値0.7、最大値3.4)となり(表1)、また鶏の日齢が高いほど伝播率は低く(p値 0.02)、かつ侵入から摘発までに長い日数を要する(p値 0.02)(図2)。
  • 肉用鶏農場におけるHPAIの基本再生産数は、中央値5.8(最小値2.6、最大値13.5)と推定される(表1)。この推定結果はウイルスが鶏群に入った際に、感染が急速に広がることを示している。

成果の活用面・留意点

  • ウイルスの農場への侵入から摘発までに要する期間を明らかにすることで、疫学関連農場の追跡期間の絞り込みや早期摘発への取り組みの強化に有益な情報を提供する。
  • 本研究の感染症数理モデルでは、流行株を用いた感染実験の結果を踏まえて、感染した鶏がウイルスの排泄を始めるまでの期間を2日間、排泄開始から死亡までの期間を4日間と仮定している。
  • 養鶏場の鶏は、肉用鶏では平飼い、採卵鶏ではケージで飼育されることが多い。飼養形態や流行株によって伝播率等は変わる可能性がある。なお、本研究は肉用鶏農場を対象とした分析であり、採卵鶏農場は対象としていない。

具体的データ

図1 感染症数理モデル(SEIRモデル)の模式図,表1 農場へのウイルス侵入から摘発までの日数、伝播率及び基本再生産数の推定結果,図2(A)鶏の日齢と伝播率の相関ならびに(B)鶏の日齢と農場へのウイルスの侵入から摘発までに要した日数の相関

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
  • 研究期間 : 2020~2022年度
  • 研究担当者 : 早山陽子、澤井宏太郎、村藤義訓、山口英美、山本健久
  • 発表論文等 : Hayama Y. et al. (2022) Prev.Vet.Med. 208:105768