牛アデノウイルス7型の弱毒化と温度感受性獲得に関わるゲノム領域を特定する

要約

牛アデノウイルス7型弱毒生ワクチン株と強毒の親株のゲノム配列を比較することにより、弱毒化と温度感受性獲得の原因となったDNA塩基配列の変異、欠損、挿入が特定される。これらの遺伝子情報は、他の血清型株の新規弱毒生ワクチンの開発に役立つ。

  • キーワード : 牛アデノウイルス7型、温度感受性、弱毒化、全ゲノム解析、pVI、ITR
  • 担当 : 動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・新興ウイルスグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

牛アデノウイルス(BAdV)は牛呼吸器病症候群を引き起こす重要病原体の1つであり、特に血清型7型(BAdV-7)は他の血清型と比べ、感染牛が重症化しやすいことから、弱毒生ワクチンが開発されて家畜生産現場で使用されている。当該ワクチンの開発は1970年代に行われ、動物接種試験によって有効性や安全性が確認されたが、当時はゲノム解析技術がなかったため、遺伝学的な背景が未解析であった。そこで現在の次世代シークエンス解析技術によって、BAdV-7の弱毒化ワクチン株(TS-GT株)と強毒株であるその親株(袋井株)について全ゲノム解析を実施し、両株のDNA塩基配列の違いを解明する。また両株には病原性と温度感受性に関して明らかな性状の違いがあり、それがどの遺伝子領域の寄与によって生じているかを文献情報と比較して推定する。

成果の内容・特徴

  • BAdV-7 TS-GT株と袋井株のウイルスゲノム全長の塩基配列を決定後、配列データベース(DDBJ)へ登録する(登録番号は LC606503.1およびLC597488.1)。
  • ウイルス粒子を構成するタンパク質のうち細胞への吸着に関わる受容体結合部位はFiber、Penton、Hexonであるが、これらの遺伝子配列は両ウイルス株間で100%保存されている(図1)。
  • 一方、袋井株との比較解析により、TS-GT株のウイルスゲノムには5箇所の変異/欠損/挿入部位が見いだされる(図2)。
  • このうち 30 kb 付近への塩基配列の挿入は、各種調節タンパク質(RH1~RH5、E4.1~E4.3)の発現に影響を及ぼすことで、ウイルスの弱毒化に寄与していると考えられる(図2)。
  • また 14 kb 付近の変異は、カプシドタンパク質 pVI にアミノ酸置換を生じさせるため、当該分子の立体構造を変化させることにより、温度感受性の獲得に寄与している可能性がある(図1,2)。

成果の活用面・留意点

  • BAdV-7 ワクチン株の弱毒化、温度感受性獲得への関与が示唆されるウイルスのゲノム領域が特定され、牛アデノウイルスの病原性の変化に寄与する遺伝的変異の存在が明らかになる。
  • 本成果を契機に弱毒化のメカニズムが証明されれば、様々な血清型のBAdVに対する弱毒生ワクチンの開発研究の進展や分子疫学調査への利用につながる。

具体的データ

図1 BAdV粒子の構造,図2 牛アデノウイルス血清型7(BAdV-7)のゲノム構造と弱毒株における変化

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2020年度
  • 研究担当者 : 熊谷飛鳥、梶河紗代(兵庫県姫路家保)、宮﨑綾子、畠間真一
  • 発表論文等 :