国産BSE ELISAキットは鹿慢性消耗病プリオンを検出する

要約

国産のニッピブルBSE ELISAキットは、BSEの死亡牛一次検査に用いられている。シカのプリオン病である鹿慢性消耗病の検査において、多検体処理可能な本キットがシカ異常プリオン蛋白質の検出にも有効である。

  • キーワード : 鹿慢性消耗病、プリオン、異常プリオン蛋白質、ELISA
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・ウイルスグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

鹿慢性消耗病はプリオン病の一つで、北米を中心にまん延し、北欧・韓国にも広がっている。これまでのプリオン病とは異なり、糞や尿などに感染性物質を含み、一旦侵入・まん延した地域では完全に本病を駆除することが困難であることも示されている。本病の国内侵入をより迅速かつ広範な地域でモニターするためにも、簡便で多検体処理可能な検査体制の構築が急務である。そこで、死亡牛BSE検査において各都道府県の家畜保健衛生所で使用されるニッピブルBSE ELISAキットが鹿慢性消耗病に有効か否かを検証する。

成果の内容・特徴

  • ニホンジカ(エゾシカ、50検体;ホンシュウジカ、133検体;ヤクシカ、3検体)において、検査の標的であるプリオン蛋白質の推定アミノ酸配列に多様性が認められない。
  • ニッピブルBSE ELISAキットで使用する抗体(1F5とT2)は、めん羊の一部の遺伝型とは反応しないが、ニホンジカの亜種ならびにキョンのプリオン蛋白質と反応する(表)。
  • ニッピブルBSE ELISAキットで得られた検査結果が既報のウエスタンブロット法と完全に一致したことから、本キットは鹿慢性消耗病の簡便かつ多検体処理可能な検査に貢献する(図)。

成果の活用面・留意点

  • わが国で採用されている死亡牛のBSE検査手法は鹿慢性消耗病の摘発にも有効である。
  • 鹿慢性消耗病がわが国で発生した際、各都道府県での迅速な検査体制の構築が可能になる。
  • 鹿慢性消耗病の検査において、新たな検査技術の導入を必要としないが、確定検査としてウエスタンブロット法は必要である。

具体的データ

表 各種動物種のプリオン蛋白質と抗体の反応性,図 異常プリオン蛋白質検出法の概要

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
  • 研究期間 : 2018~2021年度
  • 研究担当者 : 松浦裕一、宮澤光太郎、堀内基広(北海道大)、鈴木章夫(北海道大)、横山真弓(兵庫県立大)、今村守一(宮崎大)、池田圭吾、岩丸祥史
  • 発表論文等 : Matsuura Y. et al. (2022) Microbiology and Immunology 66: 212-215