ハチミツからの腐蛆病菌およびマクロライド耐性遺伝子の検出

要約

ハチミツに混入する腐蛆病菌と、腐蛆病菌を薬剤耐性化させる恐れのあるマクロライド耐性遺伝子(ermCおよびermB)保有菌はPCRにより検出可能であり、蜂場における腐蛆病の発生リスクや腐蛆病菌の薬剤耐性化リスクの評価に利用できる。

  • キーワード : ハチミツ、腐蛆病、マクロライド耐性遺伝子、ermCermB
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

腐蛆病は、家畜伝染病予防法で家畜伝染病に指定されるミツバチの細菌性疾病であり、発症した場合、治療は行わず、巣箱ごと焼却処分しなければならない。腐蛆病には、異なる病原体によって引き起こされる2種類の病気(ヨーロッパ腐蛆病とアメリカ腐蛆病)があり、原因菌であるヨーロッパ腐蛆病菌とアメリカ腐蛆病菌は、臨床上、健康な蜂群のハチミツからも検出されることがある。したがって、ハチミツ中に腐蛆病菌が存在する場合、腐蛆病の発生リスクが高くなると考えられる。
日本では、ヨーロッパ腐蛆病の予防目的で薬剤を使用することはできないが、アメリカ腐蛆病には予防薬としてマクロライド系抗生物質のタイロシンの使用が認められている。しかし、アメリカ腐蛆病菌がマクロライド耐性遺伝子(ermCおよびermB)を獲得すると予防薬への感受性が低下し、特にermCの獲得によってタイロシンに耐性化することが報告されている。また、このような耐性遺伝子を保有する菌がハチミツに混入していることも知られており、ハチミツ混入菌からアメリカ腐蛆病菌への薬剤耐性遺伝子の伝達がアメリカ腐蛆病菌薬剤耐性化メカニズムの一つであると考えられている。したがって、ハチミツ中にマクロライド耐性遺伝子保有菌とアメリカ腐蛆病菌が同時に存在する場合、アメリカ腐蛆病菌の薬剤耐性化リスクが高くなると考えられる。
しかし、腐蛆病菌や薬剤耐性遺伝子保有菌が国産ハチミツにどの程度の割合で存在するかは明らかになっていない。そこで本研究では、ハチミツからの最適なDNA抽出法を検討するとともに、市販の国産ハチミツにおける腐蛆病菌およびermCermBの検出率を調査することによって、日本における腐蛆病発生リスクとアメリカ腐蛆病菌の薬剤耐性化リスクを把握し、適切な腐蛆病予防に資する情報を提供することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • ハチミツからの細菌DNAの抽出には、抗酸菌のDNA抽出に用いられるヨーネスピン ver. 2またはヨーネピュアスピン(ファスマック)が最適である。
  • 腐蛆病菌を検出するマルチプレックスPCR(2022年度普及成果情報「腐蛆病菌の検出および遺伝子型/表現型別を識別するマルチプレックスPCR法」)を用いて、市販の国産ハチミツ116種類を調査した結果、94.0%からいずれかの腐蛆病菌が検出され、国内の蜂群には広く腐蛆病菌が存在することが示唆される(図A)。
  • 新たに開発したマクロライド耐性遺伝子検出用リアルタイムPCRでは、市販の国産ハチミツ116種類のうち、91.4 %からermCまたはermBが検出され、マクロライド耐性遺伝子を持つ菌も国内の蜂群に広く存在することが示唆される(図B)。
  • 調査したハチミツのうち、71.6 %からはermCとアメリカ腐蛆病菌がどちらも検出される(図C)。このようなハチミツを生産する蜂群では、腐蛆病予防薬であるタイロシンの使用により、薬剤耐性アメリカ腐蛆病菌が選択される可能性があるため、予防薬を用いない対策が推奨される。

成果の活用面・留意点

  • 腐蛆病菌の検出系とマクロライド耐性遺伝子の検出系を組み合わせることで、腐蛆病の発生リスクやアメリカ腐蛆病菌が薬剤耐性化するリスクをあらかじめ予想し、より慎重かつ適切に予防薬を使用することが可能となる。その結果、アメリカ腐蛆病予防薬をより長く有効的に使うことが可能となる。
  • 腐蛆病菌を検出するマルチプレックスPCRに必要なプライマーセットおよび陽性コントロールは、農林水産省の令和4年度戦略的監視・診断体制整備推進委託事業により都道府県家畜保健衛生所に配布した。

具体的データ

図 市販の国産ハチミツからの腐蛆病菌および薬剤耐性遺伝子の検出率(ND:未検出)

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:動物用抗菌剤の使用によるリスクを低減するための研究)
  • 研究期間 : 2017~2021年度
  • 研究担当者 : 岡本真理子、古屋裕崇(群馬県)、杉本郁子(静岡県)、楠本正博、髙松大輔
  • 発表論文等 :
    • Okamoto M. et al.(2022)J. Vet. Med. Sci. 84:390-399
    • Okamoto M. et al.(2022)J. Vet. Med. Sci. 84:1453-1456