牛に様々な症状を引き起こす病原細菌ヒストフィルス・ソムニの薬剤耐性

要約

牛に様々な症状を引き起こす病原細菌ヒストフィルス・ソムニは、呼吸器病由来の薬剤耐性保有株の増加とともに、近年分離株の薬剤耐性率が上昇している。本菌による感染症を治療する際には、抗菌剤を慎重に使用する必要があり、本研究成果は抗菌剤の選択における参考情報となる。

  • キーワード : ヒストフィルス・ソムニ、牛、薬剤耐性、細菌性呼吸器病、薬剤耐性遺伝子
  • 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・細菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

薬剤耐性菌の増加は人や動物の細菌感染症に対する治療効果を低下させるため、家畜の分野でも対策が必要であり、わが国では「薬剤耐性対策アクションプラン」に基づいた薬剤耐性菌の動向調査や抗菌剤の慎重な使用が推進されている。しかし、牛に様々な症状を引き起こす病原細菌ヒストフィルス・ソムニについては、これまで薬剤耐性に関する国内分離株の調査が行われておらず、治療時の抗菌剤選択において参考となる情報がない。
そこで本研究では、国内の多様な分離菌株について、薬剤耐性化状況および薬剤耐性遺伝子の保有状況を明らかにし、ヒストフィルス・ソムニ感染症治療時の抗菌剤選択の一助とする。

成果の内容・特徴

  • 1978年~2017年の間に国内で飼育されていた牛から分離されたヒストフィルス・ソムニ株では、呼吸器病由来株を中心に、治療によく用いられる薬剤(オキシテトラサイクリン、アンピシリン、アモキシシリン、カナマイシン、ナリジクス酸、エンロフロキサシンおよびダノフロキサシン)に対する薬剤耐性株が認められる(表1)。一方、フロルフェニコール、エリスロマイシン、タイロシンおよびセフチオフルに対する耐性株は認められない。
  • 薬剤耐性株の割合は近年になるほど上昇しており、2001年以降は4割以上の分離株が1剤以上に耐性を示す(図1)。
  • オキシテトラサイクリン、アンピシリン、アモキシシリンおよびカナマイシンに耐性を示す株は、それぞれ関連する薬剤耐性遺伝子(オキシテトラサイクリン: tetHおよびtetR遺伝子、アンピシリンおよびアモキシシリン: blaROB-1遺伝子、カナマイシン: aphA1遺伝子)を保有している(表2)。これらの薬剤耐性遺伝子が本菌の耐性化に関与している可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • 本研究により国内のヒストフィルス・ソムニの薬剤耐性化状況が明らかになり、特に抗菌剤治療の対象となる呼吸器病の治療時の薬剤選択において、参考情報として利用可能である。ただし、ナリジクス酸は現在牛の治療薬として市販されていないため、試験研究上の参考とする。
  • 治療においては、症例ごとに薬剤感受性試験を実施してから適切な抗菌剤を選択すべきであるが、薬剤感受性試験には時間を要する。一部の薬剤では、耐性形質と薬剤耐性遺伝子の有無に関連が認められるため、薬剤耐性遺伝子を検出することにより抗菌剤の有効性を迅速に判定できる可能性がある。
  • 年代ごとに耐性化傾向が変化しているため、今後も継続して薬剤耐性化状況を把握していく必要がある。

具体的データ

表1 ヒストフィルス・ソムニが分離された宿主の状態と薬剤耐性パターン,図1 薬剤耐性株の割合の変遷,表2 薬剤耐性と薬剤耐性遺伝子の保有状況

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:環境への抗菌剤・薬剤耐性菌の拡散量低減を目指したワンヘルス推進プロジェクト)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 上野勇一、鈴木健太(長野県)、髙村祐士(愛知県)、星野尾歌織、髙松大輔、勝田賢
  • 発表論文等 : Ueno Y. et al. (2022) Front. Vet. Sci. 9:1040266.