2022年シーズン初期に国内の野鳥より検出した高病原性鳥インフルエンザウイルスの系統解析

要約

野鳥における鳥インフルエンザの検査機関と連携し、2022年シーズン初期に国内野鳥より検出した高病原性鳥インフルエンザウイルスの系統解析を行う。シーズン初期分離株の解析結果は、2022年シーズン流行株の推測の手助けとなり、現行診断法の検証に活用可能である。

  • キーワード : 高病原性鳥インフルエンザウイルス、系統解析、2022年シーズン、野鳥、H5N1亜型
  • 担当 : 動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・新興ウイルスグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

農研機構・動物衛生研究部門は、家きん農場における高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の診断及び高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)発生株の性状解析のみならず、野鳥における鳥インフルエンザの検査機関(国立環境研究所、北海道大学及び鳥取大学等)と連携し、野鳥から検出されたHPAIVの診断及び解析にも取り組んでいる。シーズン初期に国内で検出された野鳥分離株の配列情報を迅速に共有しており、これらの情報は国内の家きんと野鳥で流行しうるウイルスの予測及び早期検出のための診断法の有用性の検証に活用されている。H5亜型HPAIVによる家きん農場での過去最大規模の発生が確認された2022年シーズンにおいては、野鳥からのHPAIVの検出も28道県で242事例報告されており、その検出時期も9月25日とこれまでで最も早いことが報告されている。本研究では、環境省の検査機関と連携の下、2022年シーズン初期(9月から10月の間)に野鳥より検出されたHPAIVの塩基配列決定を行い、公共データベースを通じて共有する事と同時に、野鳥分離株の分子系統解析を行い、それぞれの遺伝的背景を明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 表1に示す日本国内で衰弱あるいは死亡した野鳥よりスワブ検体を採取後、ウイルスゲノムを直接検出またはHPAIVを分離する。塩基配列の解読の結果、全てのウイルスはH5N1亜型のHPAIVである。これらの野鳥分離株の塩基配列は公共データベースを通じて迅速に共有される。
  • ヘマグルチニン(HA)遺伝子の分子系統解析(図1)の結果、NIES208より分離したHPAIVはG2bグループに分類される(表1)。NIES212より検出したHPAIVは、G2cグループに分類される。その他の4検体から分離されたHPAIV(4株)は、G2dグループに分類される。G2b及びG2dグループは2021年シーズンに日本国内で確認されているが、G2cは2022年の秋季に国内で初めて確認されたグループである。2022年シーズン初期(2022年の9月から10月までの間、家きん農場で発生するまでの期間)に、合計3種類のHPAIVが国内に侵入したことを示す。
  • 全分節遺伝子についてそれぞれ分子系統解析を行うと、G2bとG2dに分類されたウイルスは、2021年シーズンに家きんから分離されたウイルスと同じ遺伝子型であることを示す。PB1遺伝子とMP遺伝子を除く6分節遺伝子の系統解析の結果(NIES212のPB1遺伝子とMP遺伝子の塩基配列は解読できていない)、G2cに分類されたNIES212は、少なくとも6遺伝子分節に関しては、2021年シーズンにアジア諸国で分離されたH5N1亜型のHPAIVと近縁である。

成果の活用面・留意点

  • 2022年シーズンの発生家きん農場からも本研究成果で得られた3つのグループのHPAIVが認められたことから(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niah/160029.html)、シーズン初期での野鳥由来解析に関するこれらの成果は、家きん農場で流行しうるHPAIV株の推測に活用可能と思われる。
  • シーズン初期の野鳥分離株の配列情報を迅速に共有することで、PCR法等の診断法や備蓄緊急ワクチンの有効性の検討等に活用できる。

具体的データ

表1 検体の情報,図1 HA遺伝子の系統解析

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
  • 研究期間 : 2022~2023年度
  • 研究担当者 : 高舘佳弘、鍋島圭(国立環境研究所)、曽田公輔(鳥取大学)、日尾野隆大(北海道大学)、磯田典和(北海道大学)、迫田義博(北海道大学)、峯淳貴、宮澤光太郎、大沼学(国立環境研究所)、内田裕子
  • 発表論文等 : Nabeshima K. et al.(2023), Viruses, 15(9), 1865