デジタルカメラで撮影した画像を用いたリンゴ果肉褐変の効率的な評価法

要約

デジタルカメラで撮影した画像内の複数領域における色彩値の同時定量を行い、Browning indexによるリンゴの果肉褐変の客観評価を効率的に行う手法である。野菜スライサーと抜き型で調製された果肉ディスクをサンプルとして用いることで、多数の個体の同時評価ができる。

  • キーワード:リンゴ、果肉褐変、画像解析、色彩値同時定量、Browning index
  • 担当:果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・落葉果樹品種育成グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴの果肉細胞が壊れた際に発生する褐変現象は果実の品質を低下させ、その用途を制限している一因である。果肉難褐変性の品種数を増やすことでリンゴの需要増加が期待できるが、従来の色彩計や化学分析法を用いる褐変評価法は非効率的であり、多数の個体評価が求められる育種の選抜調査のような試験に適用するのは困難である。そこで、デジタルカメラで撮影した画像を果肉褐変の評価に利用し、加えて簡便迅速に調製が可能なサンプル形態と測定条件を検討することにより、多数の調査に適用可能で効率的なリンゴの果肉褐変評価系を確立する。

成果の内容・特徴

  • 図1に示すような一定の光環境を用いることで、三刺激値直読法による複数領域の同時色彩値測定をデジタルカメラで撮影した画像から行うことが可能である。
  • 開発した手法では、市販の高性能色彩計と同質で同等精度、かつ効率が最大42倍となる測定を、約1/4の金額で実現できる(表1)。
  • 野菜スライサーと抜き型で調製された果肉ディスクをサンプルとして用いることで、簡便で迅速なサンプルの調製が可能である(図2)。野菜スライサーには、スライサー本体を台と水平に固定可能で、かつ厚さ調節が可能である製品を用いるのが良い。
  • リンゴの果肉褐変を評価するための十分なデータは、表2に示した条件で評価することにより得られる。
  • CIE1976L*a*b*色空間中の3座標であるL*、a*、b*を用いて下記の式で計算されるBrowning index (BI; Buera et al., 1985)はリンゴの果肉褐変程度の視的感覚に近い指標であり、その2色間の差⊿BIを計算することで果肉褐変の程度を定量化できる(図2)。
    BI = 100 × X - 0.31 0.172 、ただし X = a * + 1.75L * 5.645L * + a * - 3.012b *

成果の活用面・留意点

  • 色彩値の測定は光源の種類や消耗の程度に大きな影響を受けるため、測定には厳密に遮光された室内か、遮光が可能な撮影用ブースを用いる。
  • 色彩計と同等の精度での測定を実現するためには、赤青緑の三刺激値が自明な100種類以上の色標本を撮影し、それぞれの画像の色標本領域より抽出した色彩値情報から検量線を作成して、測定したい領域ごとに校正を行う必要がある。
  • 著しく濃い赤果肉やみつ入りの多い果肉では褐変に伴う色彩値の変化傾向が通常と異なるため、BIによる通常果肉と同一基準での評価が困難であることに留意する。

具体的データ

表1 開発した色彩値測定法と市販の色彩計の比較,表2 本法によるリンゴ果肉褐変程度の評価条件,図1 色彩値の測定に使用する環境の例,図2 リンゴ3品種のBIの経時変化とその際の果肉色の変化

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:清水拓、岡田和馬、森谷茂樹、阿部和幸
  • 発表論文等:Shimizu T. et al. (2021) J. Amer. Soc. Hort. Sci. 146:241-251