リンゴの果肉褐変性は3箇所の染色体領域に制御される

要約

リンゴの果肉褐変性を制御する染色体領域は3箇所あり、これらの遺伝子型の組合せから褐変性が予測できる。この情報を用いて、難褐変性個体を生じやすい交配組合せを選定する、難褐変性個体を選抜するなど、褐変しにくいリンゴの品種育成が加速する。

  • キーワード:リンゴ、果肉、難褐変性、褐変指数、GWAS
  • 担当:果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・果樹茶育種基盤グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

「ふじ」をはじめとするほとんどのリンゴ品種は、果実をカットして果肉が空気に触れると短時間で褐変し、見た目の低下とともに商品価値が損なわれる。カットフルーツとしてリンゴを流通させるには、褐変の原因となる果肉中のポリフェノールの酸化を抑制するための処理や包装を行っている。これらの手間やコストをなくすため、果実をカットしても褐変しにくい、難果肉褐変性を示す品種開発が求められている。しかし、リンゴの難褐変性に関わる遺伝情報は不明であり、褐変しにくい品種の計画的な育成は困難である。
そこで、難果肉褐変性リンゴを効率的に育成することを目的として、リンゴ果肉の褐変性を果実のすりおろし褐変指数として評価し、ゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Study: GWAS)により原因染色体領域を同定する。

成果の内容・特徴

  • 24種類の交配組み合わせから育成した468個体のリンゴ実生個体に結実した果実を収穫し、すりおろし24時間後に目視により褐変程度を指数評価すると、6段階(褐変指数0:無、1:僅、2:低、3:中、4:高、5:甚)に分類される(図1)。
  • 1.の材料について、リンゴの全染色体領域にわたって設計された約1万のDNAマーカーを用いて褐変指数のGWASを行うと、第5染色体、第16染色体および第17染色体上の3箇所に原因領域が見出される(図2)。第5染色体の領域はポリフェノール酸化酵素の働きに関与する領域と、第16および第17染色体の領域はポリフェノール類の含有量に関与する領域と一致する。それぞれの領域で難褐変性の対立遺伝子がホモ接合型であると褐変しにくくなる。
  • 既存の86品種・系統の褐変指数を測定し、DNAマーカーで難褐変性遺伝子型を示す領域の数と比較すると、難褐変性遺伝子型の領域を多く保有する個体ほど、褐変指数が低くなる。難褐変性品種として知られる「あおり27」は3領域全てで難褐変性遺伝子型を保有している(図3)。
  • 1.に含まれていない、品種育成のための交配組合せ「あおり27」×「シナノゴールド」157個体についてDNAマーカーで難褐変性遺伝子型領域の数を特定し、結実を待って褐変指数を調査すると、難褐変性遺伝子型領域を2つ保有する個体の多くが指数1以下の難褐変性個体である。このことから、開発したDNAマーカーによる難褐変性関連領域の遺伝子型の特定は、個体の褐変性を予測する技術として有効である(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本技術により、難褐変性個体を生じやすい両親の交配組合せを選択することで、効率的な個体集団の作成も可能である。
  • 褐変性の予測に使用するDNAマーカーは公表済みのSNPマーカーであるが、交配組合せごとに染色体情報を反映する適切なものを選定することで、SSRマーカーでも代用できる。

具体的データ

図1 リンゴ果肉の褐変指数(すりおろし24時間後、0:無~5:甚),図2 果肉褐変性に関与する箇所の染色体領域(赤丸),図3 既存のリンゴ86品種・系統における難褐変性遺伝子型の領域数と褐変指数,図4 「あおり27」×「シナノゴールド」157個体の育種集団における難褐変性遺伝子型の領域数と褐変指数

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(技術でつなぐバリューチェーン構築のための研究開発のうち「強み」を生み出すための品種等の開発:実需者等のニーズに対応した園芸作物のDNAマーカーの開発)、その他外部資金(SIP2)
  • 研究期間:2018~2021年度
  • 研究担当者:國久美由紀、田沢純子(青森県産技セ)、林武司、初山慶道(青森県産技セ)、赤田(深澤)朝子(青森県産技セ)、上西博英、松本敏美、今智之(青森県産技セ)、葛西智(青森県産技セ)、工藤剛(青森県産技セ)、押野秀美、山本俊哉
  • 発表論文等:Kunihisa M. et al. (2021) Tree Genetics & Genomes 17: 11.