リンゴ起源品種から現代品種への染色体ハプロタイプの遺伝自動追跡システム

要約

我が国のリンゴ品種は主に7つの起源品種に由来するため、合計14種の染色体ハプロタイプの遺伝情報は、重要形質を制御する染色体領域やその由来の推定に有用である。複数のコンピューターアルゴリズムを組合わせたDNAマーカー情報解析により、ハプロタイプの遺伝を自動追跡できる。

  • キーワード:リンゴ、ハプロタイプ、染色体領域、可視化、GWAS
  • 担当:果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・果樹茶育種基盤グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現在の国内における主要なリンゴ品種は主に7つの起源品種に由来しているため、特定の染色体領域は14種類のバリエーション(オリジナルハプロタイプ)のいずれかに該当すると考えられる(図1)。現代品種や育種実生が持つ染色体をオリジナルハプロタイプで表し、起源品種からの遺伝を正しく追跡することで、国内品種が持つ遺伝的多様性や、重要な形質を制御する染色体領域やその由来が明確になり、交雑親の選定など育種計画への利用が期待される。しかし、DNAマーカー解析によるハプロタイプ遺伝の追跡を手動で行うことは大変な労力を伴うため、自動化技術の開発が求められている。
そこで本研究では、複数のコンピューターアルゴリズムを組み合わせることで、ゲノム全域に分布する1万強のDNAマーカーの多型情報から、オリジナルハプロタイプの遺伝を自動追跡するシステムを開発する。また、開発システムを用いたGenome-Wide Association Study(GWAS)により、有用なオリジナルハプロタイプの検出と品種育成過程における追跡を試行する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、1)2本の相同染色体上のDNAマーカー多型の整理(連鎖相の推定)、2)種子親および花粉親由来の相同染色体の推定、3) 世代更新の際の染色体組換え位置を基準とした各相同染色体上のハプロタイプブロックの推定、4)各ハプロタイプブロックのオリジナルハプロタイプへの紐づけ、の4ステップから構成される(図2)。
  • 本システムを主に国内のリンゴで構成される185品種・系統、および659個体の育種実生へ適用すると、これらの全ゲノム領域の92%が14種類のオリジナルハプロタイプで表される。手動によるハプロタイプ追跡の結果を正解として照らすと、本システムによるハプロタイプ追跡の精度は90%である。
  • 14種類のオリジナルハプロタイプで表された品種・系統・育種実生のデータを用いてGWASを行うと、「ウースターペアメイン」の持つ一方のハプロタイプ(ハプロタイプ10、図1)が、本品種の後代における果皮の赤着色と強い関連を示す。系譜情報を併用することで、この有用ハプロタイプの現代品種への遺伝が可視化できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 果皮の赤着色以外にも高酸度や難褐変性など、重要形質のオリジナルハプロタイプを解明・追跡することで、これらを保有する品種を交配親に用いた、目標に応じた育種デザインが可能となる。
  • 本追跡システムは、リンゴ以外の他殖性作物にも利用可能である。
  • 本追跡システムで利用可能なDNAマーカーは、現時点で共優性マーカーのみである。

具体的データ

図1 7つのリンゴ起源品種における染色体の14種類のオリジナルハプロタイプ,図2 染色体ハプロタイプ遺伝の自動追跡システムを構成する4ステップ,図3 リンゴ果皮の赤着色遺伝子領域における「ウースターペアメイン」のハプロタイプ10(図1)の品種群での遺伝

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(技術でつなぐバリューチェーン構築のための研究開発のうち「強み」を生み出すための品種等の開発:多数の遺伝子が関与する形質を改良する新しい育種技術の開発)
  • 研究期間:2012~2021年度
  • 研究担当者:國久美由紀、南川舞(東京大)、野下浩司(九州大)、森谷茂樹、阿部和幸、林武司、片寄裕一、松本敏美、西谷千佳子、寺上伸吾、山本俊哉、岩田洋佳(東京大)
  • 発表論文等:Minamikawa M. F. et al. (2021) Hort. Res. 8:49