カンキツの健康機能性成分β-クリプトキサンチンを高含有化する遺伝子セット

要約

カンキツ果実に蓄積されるβ-クリプトキサンチンはカロテノイド代謝系の中間に位置しており、高含有品種・系統では上流のフィトエンシンテース遺伝子座に対立遺伝子PSY-aが、下流のゼアキサンチンエポキシダーゼ遺伝子座に対立遺伝子(アレル)ZEP-aまたはZEP-eが配置されている。

  • キーワード:β-クリプトキサンチン、カンキツ、カロテノイド、アレル、高含有化
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツ品種育成・生産グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カンキツに含まれるカロテノイド類であるβ-クリプトキサンチン(BCR)は、発がんの抑制、骨粗鬆症や糖尿病などの生活習慣病の予防に役立つことが明らかになり、健康機能性を訴求するBCRを高含有化した新品種の育成が求められている。カンキツの果実中のカロテノイド含有量は、複数存在するカロテノイド代謝系遺伝子座の対立遺伝子(アレル)の組み合わせに依存することから、BCR高含有化に関わる最適なアレルの組み合わせを明らかにし、BCR高含有化育種のための選抜マーカーの開発につなげる。

成果の内容・特徴

  • 既往の成果により、カンキツ品種間で果実のカロテノイド含有量や組成に多様性がみられ、これは、カロテノイド代謝系の代謝酵素遺伝子の発現バランスの差異によること、その差異はフィトエンシンテース(PSY)、β-リングハイドロキシラーゼ(HYb)ゼアキサンチンアポキシダーゼ(ZEP)、9-シスエポキシカロチノイドジオキシゲナーゼ(NCED)の4つの代謝酵素遺伝子と,フィトエンディサチュラーゼ(PDS)とζ-カロテンディサチュラーゼ(ZDS)を制御する1つの転写因子遺伝子のアレル組み合わせによる(図1)。また、わが国のカンキツ育成品種は13祖先品種であるダンシー、グレープフルーツ、キシュウ、ブンタン、ハッサク、ヒュウガナツ、スイートオレンジ、イヨ、クネンボ、ポンカン、ウィローリーフ、キング、マーコット)に由来するので、各遺伝子座のアレルの数は最大でも26と考えられた。
  • 13の祖先品種を対象に、PSYHYbZEPNCEDPDSZDSを制御する転写因子のアレル構造を次世代シーケンサーを用いて調査したところ、それぞれ、7、7、11、5、4のアレルタイプで構成されており、各アレルを識別するSNPハプロタイプ(SNP:両親から受け継いだアレル間における遺伝子のDNA配列における差異で一対の一塩基のみの差異のことを示す,ハプロタイプ:片方の親由来の遺伝子のDNA配列における複数の一塩基多型の並び)を決定した(表1 a、b)。
  • SNPハプロタイプを用いて263の育種系統の5遺伝子のアレルタイプを決定し、アレルタイプとカロテノイド含有量のベイズ統計解析を行った結果、BCR含有量や総含有量に対して正負の影響も持つアレルが見られる(図1 a、b)。また、代謝遺伝子間において、上位性がみられ、含有量や組成に影響を及ぼす。
  • BCR高含有を育種目標に含める場合、このアレルの効果を考慮した育種親を選定することにより、BCR高含有化の育種デザインが可能となる。

成果の活用面・留意点

  • SNPハプロタイプを利用してBCR高含有個体を早期選抜するためのSNPマーカーを開発でき、BCR含有量に正の影響のあるアレルを保有する個体を選抜できる。
  • 開発したSNPマーカーを現行の育種集団に適用し、有効性を検証する必要がある。

具体的データ

図1 カロテノイド代謝系においてβ-クリプトキサンチン高含有化に関与すると想定された代謝酵素遺伝子,表1 祖先13品種を対象に解析した関連遺伝子のSNPハプロタイプ,図2 β-クリプトキサンチン含有量に対する(a)PSY遺伝子および(b)ZEPにおいて正(●)負(▲)の効果を持つアレル

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:【革新的技術開発・緊急展開事業】先導プロジェクト)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:藤井浩、野中圭介、南川舞(東京大)、遠藤朋子、杉山愛子、濱崎甲資(東京大)、岩田洋佳(東京大)、大村三男(静岡大)、島田武彦
  • 発表論文等: Fujii H. et al. (2021) PLoS ONE 16(2):1-34.