カンキツかいよう病抵抗性には香気成分リナロールが寄与する
要約
ポンカンとヒュウガナツが示すカンキツかいよう病抵抗性には、葉の油胞組織にあらかじめ高含有に蓄積される香気成分リナロールが抗菌物質として寄与する。また、高含有するほど本病抵抗性が高まる。
- キーワード:カンキツ、かいよう病、抵抗性、香気成分、リナロール
- 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツ品種育成・生産グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近年、温暖化の進行により国内外の園地においてカンキツかいよう病(Xanthomonas citri subsp.citri)の被害が深刻化し、抵抗性品種の開発が急務となっている。我が国で栽培されるカンキツ類ではポンカンやヒュウガナツなどが高い抵抗性を示す。また、ポンカンを花粉親とする「不知火」やヒュウガナツを花粉親とする「璃の香」も本病抵抗性であることから、交雑育種によりカンキツかいよう病の抵抗性品種を開発するうえでポンカンやヒュウガナツは有望な本病抵抗性育種素材として積極的に利用されている。しかし、これらカンキツにおける抵抗性のメカニズムが明らかでないことから、カンキツ果皮に存在し、病害抵抗性への関与が知られている香気成分リナロールに着目してカンキツかいよう病抵抗性のメカニズムを明らかにし、より効率的な育種に役立てる。
成果の内容・特徴
- カンキツかいよう病抵抗性の異なるカンキツにカンキツかいよう病原菌を葉に接種すると、抵抗性のポンカンとヒュウガナツでは罹病性のレモン、ダイダイ及びオレンジに比べて病原細菌の増殖量が少ない(図1)。
- ポンカンとヒュウガナツではリナロールを罹病性レモン、ダイダイ及びオレンジに比べて500倍以上高含有に蓄積し、カンキツかいよう病菌接種後も含有量が変動しない(図2)ことから、リナロールによるカンキツかいよう病抵抗性はあらかじめ感染前から宿主に備わった静的抵抗性と考えられる。
- 「はれひめ」とポンカンの交雑実生集団を用いて遺伝子地図を作成し、カンキツかいよう病原菌接種16日後の病原細菌生育数と葉のリナロール含有量をQTL解析したところ、両者は第3染色体の同じゲノム領域に位置する(図3)。
- これらの研究結果から、ポンカンとヒュウガナツで観察される強いカンキツかいよう病抵抗性には、葉の油胞組織にあらかじめ高含有に蓄積されたリナロールの抗菌活性が関与しており、含有量の多いカンキツほど本病抵抗性が強いと示唆される。
成果の活用面・留意点
- ポンカンと同程度以上の量でリナロールを葉に含有したカンキツ個体を選抜することにより、カンキツかいよう病抵抗性個体を獲得する可能性が期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間:2017~2021年度
- 研究担当者:島田武彦、遠藤朋子、藤井浩、吉岡照高、大村三男(静岡大)
- 発表論文等:
Shimada et al.(2021)Tree Physiol.41: 2171-2188