要約
「ほしまる」は「幸水」と「豊水」の間である8月下旬から9月上旬に収穫可能な中生の赤ナシである。黒星病に抵抗性を持ち、糖度13度以上と高糖度で良食味であり、果実外観に優れることから、全国的な普及が見込まれる。
- キーワード : ニホンナシ新品種、中生、黒星病・黒斑病複合抵抗性、高糖度
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹品種育成研究領域・落葉果樹品種育成グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
ニホンナシ栽培においては、黒星病防除のために頻繁な薬剤散布が必要となっており、労働負荷や生産コストの上昇等の原因となっている。近年では薬剤耐性菌の発生や気候変動の影響から、全国的に黒星病の発生が多くなっており、黒星病抵抗性品種の育成が求められている。これまで黒星病抵抗性品種として2014年に「ほしあかり」を育成しているが、樹勢が弱く、果実表面の条溝が明瞭で果形のばらつきが大きい等の果実外観上の問題があり、広範な普及には繋がっていない。本品種は、良食味で果実外観が良い黒星病抵抗性品種の育成を目的として選抜したものである。
成果の内容・特徴
- 2006年に中生で黒斑病抵抗性を持ち良食味の青ナシである「秋麗」に、中生で黒星病・黒斑病複合抵抗性を持つ赤ナシ「ほしあかり」を交雑して育成した品種である。個体番号は510-180で、2007年に黒星病の接種検定を行うとともに、黒星病抵抗性に連鎖したDNAマーカーによる選抜を行い、黒星病抵抗性個体の幼苗選抜を行っている。2009年に選抜圃場に定植し、黒星病の接種検定で抵抗性を示して果実品質に優れることから2014年に一次選抜している。2015年から「ナシ筑波62号」の系統名で、ナシ第9回系統適応性検定試験に供試してその特性を検討した結果、2021年度の同試験成績検討会において新品種候補となる。2022年6月15日に品種登録出願を行い、同年9月29日付で出願公表されている。
- 樹勢は"中"で、枝梢の発生は"やや多" である。短果枝の着生は"少"、えき花芽の着生は"多" である。育成地(茨城県つくば市)における開花期は「幸水」と「豊水」の中間で、収穫期は8月下旬~9月上旬で「幸水」の一週間程度後である。黒星病に対して"抵抗性"である。さらに「幸水」、「豊水」と同様に黒斑病に対しても抵抗性である(表1)。
- 果形は"扁円"で条溝の発生は見られず、整った外観の赤ナシであるため、高値販売が期待できる(図1)。7年生樹における1樹当たり収量は、「幸水」、「豊水」よりやや少ない。果実の大きさは408gで「幸水」よりやや大きく、「豊水」より小さい。果肉硬度は「幸水」より低く、「豊水」と同程度で果肉は軟らかい。果汁の糖度は13.3%と「幸水」、「豊水」よりも高く、pH5.00で食味上、ほとんど酸味を感じることはなく、良食味である。年次により心腐れやみつ症が発生する場合があるが、いずれもその程度は軽微である (表2)。
- 黒星病に対して抵抗性を持ち、系統適応性試験においてもその発生報告はないことから、殺菌剤散布の軽減が期待できる。S遺伝子型はS3S5であり、同一遺伝子型の「豊水」とは交雑不和合であるが、「幸水」、「新高」、「二十世紀」、「あきづき」等の他の主要品種とは交雑和合である。
普及のための参考情報
- 普及対象 : ニホンナシ生産者
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国35場所で試作栽培試験を行い、東北から九州までの大部分の場所で有望と評価されており、全国的に普及が見込まれる。
- その他 : 苗木販売は供給体制が整い次第、提供開始する予定である。系統適応性検定試験において、みつ症の発生についての報告が一部場所から挙げられているが、その症状はおむね軽微である。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2006~2021 年度
- 研究担当者 : 髙田教臣、齋藤寿広、西尾聡悟、加藤秀憲、寺上伸吾、澤村豊、竹内由季恵、平林利郎、佐藤明彦、土師岳、尾上典之、今井篤
- 発表論文等 : 髙田ら「ほしまる」品種登録出願公表第 36307 号(2022年9月29日)