要約
「励広台2号」は、イチジクとイヌビワの種間雑種であり、イチジク株枯病に極めて強い。休眠枝を挿し木することによって増殖でき、「蓬莱柿」との接ぎ木も容易である。接ぎ木した「蓬莱柿」の新梢長は自根樹より短く、主幹の幹周も細くなってわい化する。
- キーワード : イヌビワ、種間雑種、抵抗性台木、繁殖性、接ぎ木親和性
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹生産研究領域・果樹スマート生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
1980年初頭に愛知県で確認されたイチジク株枯病(病原菌:Ceratocystis ficicola)は、イチジク(Ficus carica)の難防除病害の一つである。
その後、現在はほぼ全国の産地で被害が拡大している。本病は主に土壌経由で感染が拡大し、罹病樹は葉の萎凋・落葉の後、最終的に枯死する。改植しても土壌中に耐久性のある胞子が残存しているため、数年後に再発する。防除法として農薬の土壌潅注や客土があるが、費用と労力面で大きな負担となる。現在はイチジクの中で株枯病に比較的強い品種が台木に利用されているが、罹病性のため感染リスクを完全には避けられない。
そこで、株枯病に極めて強いイチジク属野生種イヌビワを花粉親に用い、イチジクと接ぎ木親和性があり、自根樹と同等の生育をする株枯病抵抗性台木「励広台1号」を2019年に品種登録出願した。一方、「蓬莱柿」など樹勢が強い品種に対しては、樹勢を抑えるわい性台木が強く望まれていることから新たに株枯病抵抗性を有したわい性台木を育成する。
成果の内容・特徴
- 農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究領域(現 農研機構果樹茶業研究部門果樹生産研究領域)において、2004年にイヌビワとイチジクの交配に成功し、種間交雑体(F1)を得た。「励広台2号」は、2014年に F1個体(FEBN7-1(イチジク「ボルディード・ネーグラ」×イヌビワ)を花粉親、イチジク「イスキア・ブラック」を種子親に交配して BC1(戻し交雑第1世代)実生から耐病性を検定・選抜した株枯病抵抗性系統の一つである。
- 「励広台2号」は、株枯病菌の有傷接種に対して病斑の拡大はなく、イヌビワと同程度の極めて強い抵抗性を示す(表1、図1)。
- 「励広台2号」の休眠枝挿し木では、高い発根率を示し(表2)、発根量も多い。発根促進剤は不要で、挿し木した苗木の生育も良好である。
- 「蓬莱柿」と高い接ぎ木親和性(活着率 76%以上)を示し、癒合部の活着も強固である(データ略)。
- 「励広台2号」を台木とした「蓬莱柿」樹は、「蓬莱柿」の自根樹より主幹周囲長が 16%細くなり、新梢長と総新梢長も各々39%、32%と有意に短くなり、わい化効果を示す(表 3)。収量、果実重および糖度は自根樹と同等である。
普及のための参考情報
- 普及対象 : イチジク生産者。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 「蓬莱柿」産地のうち50ha。
- その他 : 2027年までは広島県のみで普及を図るが、2028年以降は全国を対象に普及させる予定である。「蓬莱柿」のように樹勢の強い品種への適用が期待されるため、わい性台木の特長を活かした省力栽培技術の開発に引き続き取り組み、品種情報と合わせた標準作業手順書(SOP)を作成予定である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2014~2021 年度
- 研究担当者 : 山﨑安津、藥師寺博、西村遼太郎、軸丸祥大(広島総研農技セ)、森田剛成(広島総研農技セ)、星野滋(広島総研農技セ)、須川瞬(広島総研農技セ)、白上典彦(広島総研農技セ)
- 発表論文等 : 藥師寺ら「励広台2号」品種登録出願公表第36151号(2022年3月29日)