要約
「豊楽台」は、「富有」の台木に利用することによって共台樹より樹高、穂木の主幹断面積および樹冠容積が小さくなる。「豊楽台」台木樹の果実品質は、共台樹と差はなく、樹冠容積当りの収量は共台樹より多い。また、緑枝挿し木で繁殖できる。
- キーワード : カキ、わい性台木、生産性、挿し木繁殖
- 担当 : 果樹茶業研究部門・果樹生産研究領域・果樹スマート生産グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
一般に、カキの台木は共台(ヤマガキ実生台など)を利用しているが、樹高が高くなりやすいため、高所作業が多くなり、作業性や安全性に問題がある。また、共台の樹冠は果実を生産しない無効空間も多く、生産効率が低い問題もある。このため、カキの低樹高栽培法として、果実生産性の高いわい性台木の開発が要望されている。また、カキは挿し木繁殖が困難な樹種のため、実用的な台木の特性として、挿し木による繁殖性が優れていることも重要である。
そこで、わい化効果があり、高生産性で繁殖性も優れるわい性台木を育成する。
成果の内容・特徴
- 「豊楽台」(旧系統名:SH11)は島根県農業技術センターが島根県、岡山県、鳥取県等に散在していた来歴不明のカキ樹から実生を育成し、同センターにおいてカキ「西条」を穂木品種とした場合のわい化効果を評価した一系統である。農研機構果樹茶業研究部門(旧農研機構果樹研究所)は、島根県から分譲された同系統を使用して、主にカキ「富有」を穂木品種とした場合のわい性台木としての有効性を長年評価し、実用性を判定してきている。2015年10月22日に農研機構と島根県の共同で品種登録出願して2016年8月9日に品種登録された。品種名「豊楽台」は、作業が楽で豊かなカキを産する台木の様を表すよう命名している。
- 「豊楽台」台の「富有」樹は、共台の「富有」樹(「アオガキ」実生台木)と比較して、樹高、樹冠容積および穂木の主幹断面積は有意に小さくなる(図1、表1)。接ぎ木部位は台木の面積が穂木のそれより大きくなる台勝ちである(表1)。
- 「豊楽台」台の「富有」樹の果実品質(果実重、糖度、着色および果肉硬度)は、共台の「富有」と有意な差はない(表2)。「豊楽台」利用樹の1樹当たりの累積収量は共台樹より少ないが、「豊楽台」台木樹の樹冠容積当たりの収量は、共台樹のそれより1.7倍程度高い(表2)。
- 「豊楽台」は発根促進剤を用いることで、新梢を挿し穂に利用する緑枝挿し木での繁殖が可能である(図2)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 種苗業者、カキ生産者
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国のカキ産地・100ha。
- その他 :
- カキ苗木の発根促進剤として、ターム水溶剤が農薬登録されている。希釈倍数は40~60倍、使用時期は挿し木直前、使用方法は挿し木基部の瞬間処理である。
- 「豊楽台」台木の「富有」は、共台樹と比べて累積収量がやや劣るため、共台樹と同程度の累積収量にするためには、1.3倍程度の密植栽培が必要である。
- 2025年頃より日本果樹種苗協会と許諾契約を締結した果樹苗木業者から接ぎ木苗木が購入できる見込みである。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2006~2020年度
- 研究担当者 : 藥師寺博、山崎安津、西村遼太郎、東暁史、杉浦裕義、児下佳子、森永邦久、朝倉利員、土田靖久、河野良洋(島根農技セ)、倉橋孝夫(島根農技セ)、持田圭介(島根農技セ)、高橋洋靖(島根農技セ)、神田己樹夫(島根農技セ)、大畑和也(島根農技セ)
- 発表論文等 :
- Yakushiji H. et al. (2021) Sci. Hort. 278: 109869
- 河野ら「豊楽台」品種登録 第25355号(2016年8月9日)